美術館訪問記-103 大塚国際美術館

(* 長野一隆氏メールより。写真画像クリックで原寸表示されます。)

今月は日本の美術館を採り上げましょう。 これまで本州、九州の美術館は幾つか触れましたが四国を代表する美術館と言えば、 徳島県鳴門市にある「大塚国際美術館」になるでしょう。

添付1:大塚国際美術館正面玄関、山の上に見えるのが美術館の地上2階部分

添付2:システィーナ礼拝堂、天井は実物よりやや低い

添付3:スクロヴェーニ礼拝堂

添付4:レオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」の部屋

この美術館は素晴らしい。

世界25カ国、190余の美術館から選りすぐった1074点の名画を、 陶板に焼き付け再現したものではありますが、一箇所で堪能できるのです。

システィーナ礼拝堂やイタリアのスクロヴェーニ礼拝堂、ポンペイの秘儀の間、 カッパドキアの聖テオドール聖堂、タルクィニアの鳥占い師の墓、 フランス、ノアン=ヴィックの聖マルタン聖堂等もほぼ本物と同じに作ってあります。

環境展示と言うそうですが、古代遺跡や教会等の壁画を それらがある環境空間ごとそのまま再現しているので、 実際に現地に行ったのに限りなく近い臨場感が味わえます。

ここにあるもののほとんど全てを現地で観て来た私も、 現地を訪れた時の感動を想い起しつつ、9時半の開館時間から17時の閉館時間まで 楽しみながら1日を過ごしました。

またここでは現地では絶対に得られない下記の利点もあります。

*絵画を手で触れるので絵具の盛り上がりやタッチを実感できる。

*現地では説明文は殆どないし、あっても外国語ですがここでは全て日本語で画家と主題について説明文があるので理解し易い。しかも内容が簡潔でよくまとまっている。

*ボランティアによる無料の日本語ガイドツアーがある。私が行った平日は、観客が少なかったようで、個人ガイドのように廻っている組を何組か見かけました。

*教会などの壁画は現地では距離と角度や照明の関係で全体がよく見えない事も多いが、十分な照明の下、目の前で隈なく観られる。

*所蔵品であれば、観たいものが必ず観られる。現地では貸し出されていたり、特別展や修復の為お蔵入りしていたり、美術館そのものが臨時休業という事は少なからずあります。

*レオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」やティツィアーノの「聖愛と俗愛」などは修復前と修復後の画面を並べて展示しているので対比しながら観られる。

*現地では撮影不可の場所も、ここでは全て撮影可。

*スクロヴェーニ礼拝堂などのように現地では15分間の時間制限がある所もあるが、ここでは全て無制限。

*テーマ展示というコーナーが幾つかあり、例えば「受胎告知」のテーマで各地にある名画を比較対照しながら観られる。

*レオナルド・ダ・ヴィンチの「岩窟の聖母」はルーヴル美術館にあるものと、ロンドンのナショナル・ギャラリーのものを並べて比較対照しながら観られる。

*ギリシャの壺絵のように立体の表面に描かれた絵を平面展開して展示しているので、全体図を一目で把握できる。

*エル・グレコの散在している6点から成る祭壇衝立を当初の状態に復元された状態で観られる。

勿論陶板画という下記のような欠点もあります。
 *油彩画の光沢は期待できない。
 *大画面の絵は陶板のつなぎ目が目障り。
 *絵の魂というか、画家の気迫、絵に込めた思いは伝わって来ない

しかし利点が欠点を補って余りあります。

往復の長時間のフライトと行き帰り2度の時差ボケと相応の出費なしに、 識者が選び抜いた古今東西の世界の名画を一度に堪能できるこの美術館は 世界に類がありません。

また色調やサイズ、三次元性に問題のある印刷された画集を何冊も見るよりは、 現物と同じ大きさで、凹凸も再現されており、現物とほぼ同じ額縁に収まった、 色彩も現物に近い、陶板画の方が余程よいでしょう。

システィーナ礼拝堂やスクロヴェーニ礼拝堂、 パリのオランジュリー美術館にあるモネの「大睡蓮」等の規模の衝撃は、 現地以外では、世界でもここしか味わえません。

大型の歪みや割れのない陶板を作るのは非常に難しく、 鳴門海峡の白砂の存在と、大塚製薬グループの大塚化学と大塚オーミ陶業との 協業によるたゆみない努力と、2万色もの色を作り出す高度な技術力の結晶です。

このような施設が日本にあるということは、日本に住む我々にとっては 僥倖とも言えるでしょう。

日本人なら美術に興味があろうとなかろうと、 是非、一生に一度はここを訪れてみる事をお勧めします。

美術に全く興味の無い方でも、何故絵画が人々の心を捉えて来たのか納得し、 美に目覚めるかもしれませんよ。

1998年開館当時は延床面積29,412m²という日本最大だった美術館は 大塚製薬の創立75周年を記念して75億円の予算で始めたそうですが、 結果としては総額400億円かかったといいます。

さもありなんという素晴らしい施設で、鳴門国立公園の景観を損ねないよう、 建物の大部分は小山の地下にあります。入口は山の麓にあるので、 正面玄関から50mはあるエスカレーターで上がった所が美術館地下3階の入口。 美術館は地上2階まであります。

美術館の直ぐ近くに鳴門公園があり、瀬戸内海の景観と、 鳴門の渦潮を足元に見る事もできます。


注:陶板画:原画を撮影したポジフィルムを元に、写真製版技術により 陶製の板に転写し焼成したもの。その性質上、変色や腐食が起こらないので、 屋外にあっても永く保存することが可能。 現時点の1枚の最大寸法は900×3000×20mmでこれより大きいものは何枚もの 陶板を継ぎ合わせて作成する。

添付5:ミケランジェロの「聖家族」、額縁の人頭突起も実物どおり 

添付6:シモーネ・マルティーニの「受胎告知」

添付7:ボッティチェッリの「受胎告知」、陶板の継ぎ目が2つある

添付8:レオンナルド・ダ・ヴィンチの「受胎告知」

添付9:レオンナルド・ダ・ヴィンチの「受胎告知」説明文

添付10:大塚国際美術館近くの鳴門公園展望台からの景色