2頁


佐藤哲男博士のメディカルトーク


目次へ


31. 過剰の塩分は寿命を削る、なぜ?

私たちは毎日の食事から、気づかないうちに必要以上にたくさんの塩分を摂取しています。私の郷里の秋田県は、昭和30年代までは高血圧による脳卒中(脳梗塞と脳出血)の患者数が全国一でした。その頃、多くの県民はしょっぱいものが大好きで、それを生涯続けていました。当時の資料によると、県民の一人一日の塩分摂取量は、驚くことに30−40グラムと記録されています。その後、県内関係者の積極的な減塩運動や、昭和43年には県立脳血管研究センターが新設されて、今では脳卒中患者数全国一の汚名から脱出することができました。

塩分を摂りすぎると、高血圧や胃がんのリスクが高くなるといわれています。そうはいっても、塩分はからだにとって必需品で、これが不足すると体調不調になります。なぜか。その理由は、塩分の主成分であるナトリウムは全身60兆個の細胞の構成成分の一つで、それを不足すると心臓のリズムが乱れるからです。このように、ナトリウムは摂取量によって悪玉になったり善玉になったりします。今回は塩分の二面性について考えます。

血圧とは?
 血圧とは心臓から全身に送り出された血液が血管を押す圧力のことで、心臓が収縮して血液を押し出すときに高くなり(上の血圧)、拡張して血液の流れが緩やかになると低くなります(下の血圧)。このような血管の収縮、拡張の繰り返しは生きている限り続きます。血管の弾力性も血圧に関係します。高齢になって動脈硬化が進んだ人や、血管の内壁に大量のコレステロールがくっついている人は、血管の弾力が低下して血液がうまく流れなくなるために、上の血圧は高くなり、下の血圧は低くなります。

血圧は一日中変動している
 血圧は精神・身体活動により常に変動しています。朝の目覚めとともに上昇するので、朝一番の血圧は高めになります(早朝高血圧)。日中は活動しているので比較的高く、夜になると下がり、睡眠中は最も低くなります。このリズムが一日中一定であれば、早朝に血圧が多少高くとも問題ないです。高齢者の血圧の特徴は、血圧の上下差が開くことです。また、下の血圧が正常で、上の血圧が高くなるのも高齢者の特徴です。日本高血圧学会は、高齢者の血圧の正常値はあくまでも130/85未満とし、高血圧を持病に持つ高齢者の降圧目標を60代140/90、70代150/90、80代で160/90と設定しています。
 血圧の個人差は遺伝や生活環境が大きく影響しています。また、食塩摂取が非常に少ない地域の人は、年をとっても血圧は低い人が多いです。季節によっても変動し、冬は高く夏は低くなります。

過剰の塩分は心臓病、高血圧を悪化する
 食塩を大量に摂ると、正常血圧の人でも血圧が上がります。高血圧の人は、より上がりやすいことがわかっています。過剰の食塩を摂ったときの血圧の上がりやすさは個人差が大きく、腎臓の働きが悪い人や、高齢になるほど上がりやすいことが知られています。食塩の摂り過ぎで血圧が高い状態が続くと、血管や心臓に負担がかかり、動脈硬化や心臓肥大が進行します。その結果、脳卒中や心筋梗塞、心不全(心臓の働きが悪くなる)、不整脈、腎不全など、多くの循環器病が起こることになります。高血圧は循環器病の最大の危険因子です。

しょっぱいものを食べると水がほしくなる,なぜ?
 健康な人の血液中の塩分濃度は0.9パーセントです。救急などで病院に運ばれたときに、点滴で使われる生理食塩水も、血液中の塩分と同じく0.9パーセントです。塩辛いものを食べると血液中の塩分濃度が高くなり、それを下げるため、喉が乾き水分が欲しくなります。水分を摂れば血液が増えます。心臓や血管の容積は決まっているので、その中の血液が増えすぎると、脳からの指令で血圧が上がり、余分の水分と塩分を排泄させようとします。そのため、水分を多く摂ると腎臓の働きが正常であればトイレに行く回数は増えて、余分の水分や塩分を体外へ排出します。まさに身体の防御作用が働いています。

塩分の悪者はナトリウム
「塩分」とは日常の生活で使われている「食塩」のことです。高血圧の真犯人は食塩の成分の中の「ナトリウム」です。食塩量=ナトリウム量ではなく、食塩の約40パーセントがナトリウム量に相当します。つまり、10グラムの食塩の中には4グラムのナトリウムが含まれている事となります。
 従来は食べ物の容器に記載されている「食塩」の表示は食塩量を示していたので、その中に含まれるナトリウム量は計算式で計算しなければなりませんでした。そのような煩雑を避けるために、2015年4月1日付の「新食品表示法」では、義務表示の「ナトリウム」は「食塩相当量」で表示されることとなりました。つまり店頭に並んでいる食品の容器に表示されている「ナトリウム」量は「食塩量」を示す事になります。しかし、食品によっては、「ナトリウム2.6グラム(食塩相当量6.6グラム)」、「1.1グラム(食塩相当量2.7)」の様に併記されているものもあります。

ナトリウムはからだに不可欠
 これまでの話でナトリウムは悪者の様に思われがちですが決して悪役だけではありません。体内ではナトリウムと水分は一緒に移動するので、炎天下のスポーツなどで脱水状態になるとナトリウムも不足して血管が緩むことがあります。こんな時には水分補給とともに塩分の供給も必要です。熱中症のときなどがそうです。塩分はからだにとっては必須成分ですが、度が過ぎると悪玉になることも確かです。 過剰な塩分はからだにとって悪玉ですが、塩分の摂取量が少なすぎてもからだの働きを害します。アメリカの病院で20万7797人の人について、食塩摂取量と病気についての関係を調査しました。調査した人たちの1日の塩分摂取量は2~13グラムの間に収まっていたので、調査対象を摂取量によって四つのグループに分けて詳しく調べました。その結果、塩分摂取量の一番少ないグループの人は脳卒中や心筋梗塞などになりやすく、最も短命だったのに対して、塩分を比較的多めに摂るグループは一番長命だったのです。
 確かに、塩分の摂取量が度を過ぎて少ないと血圧が下がるなど問題になることがあります。通常、低塩食とは一日の塩分が3−5グラム以下の食事のことを示します。6−9グラム程度が適量と考えられます。

国が推奨する食塩の摂取量
 厚生労働省は、食塩の過剰摂取が高血圧の一因となっていることを理由に、食塩摂取量と高血圧罹患率との研究データなどをもとにして、一日の塩分摂取量の目安を設定しています。特に高齢者の場合、塩分の過剰摂取は腎臓の働きを著しく損ないます。

1日の食塩摂取量の目標値
 ●厚生労働省推奨食塩摂取量の目標量(2015年4月)
  健康な男性(18歳以上):8グラム未満
  健康な女性(18歳以上):7グラム未満
  高血圧の治療を要する人:6グラム以下
  腎臓疾患のある人:3−6グラム以内
 ●日本高血圧学会による高血圧患者の減塩目標:男女とも一日6グラム未満
  (高血圧治療ガイドライン2014)。
 ●世界保健機関(WHO)の減塩目標:5グラム以下

日常の食物で注意したい塩分摂取量
 日本食は、さまざまな利点があるものの、塩分が多いことも大きな特徴です。
国民栄養調査によると、日本人の食塩摂取量は12~13グラム位で、多くの人は塩分の取り過ぎです。2015年の国の食塩摂取量改訂(上記)を機に、日頃の食生活での塩分に注目して「減塩」「低塩」が叫ばれています。減塩のためには、つけもの、塩干しの魚など特に塩辛いものや加工食品はその食べる量に注意し、汁物はうす味でも量に気をつけることが必要とされています。また、植物油を上手に使って温かい料理にする。香辛料や酢を上手に使って料理するなどの工夫も役立つことが強調されています。

毎日の食事の中にどれだけの塩分が含まれているでしょうか。資料によると、チャンハン一人前で4グラム、うどん、そば、ラーメン一杯で5グラム、また、それらの汁を残すと2グラム、みそ汁一杯で1グラム、塩サケ一切れで1.4グラムなどです。ラーメンを汁まで飲むと、それだけで一日塩分許容量の約半分を摂ることになります。

塩分に代わる食品
 減塩のために塩化ナトリウムに代わるものはあるのでしょうか。ナトリウムの代替品はカリウムです。カリウムは果物の中に含まれており、中でもアボガド(一個に約1.3グラム)、バナナ(一本、果肉100グラムに350ミリグラム)、リンゴ、オレンジなどには多く含まれています。

魚や野菜にもカリウムが含まれています。カレイ、ホウレンソウ、さつまいも、ひじきなどはカリウムを豊富に含んでいます。ひじきの成分であるアルギン酸は、体内の余分なナトリウムと結合して体外に排出してくれますので腎臓病にはよい食物として知られています。

ひじきと似た食べ物として「もずく」があります。もずくに含まれるアルギン酸は、ひじきと同様に塩分と結合して尿中に排出しますので、腎臓病の予防に有効です。また、もずくには食物繊維やフコイダンというぬめり成分が含まれており、これが痛風の原因となる尿酸値を下げることが知られています。事実、もずくの産地である沖縄では、尿酸値の高い人々がもずくを毎日食べる事により下がった例が多く知られています。

まとめ
 塩分を多く摂ることで血圧が上昇し、心筋梗塞や脳卒中などの誘因となることはほぼ確立された事実です。しかし、それではどのくらいの塩分制限が、健康のためには適切であるのか、という点については、必ずしも明確な結論が出ていません。これまで述べました様に、塩分の取りすぎは高血圧、心臓病などの原因になると唱える専門家が圧倒的に多いです。また、塩分は人間の生命を支える重要な役割がありますので、体内の塩分濃度が不足すると、細胞の中の新陳代謝が衰えます。その結果、食欲がなくなったり、筋肉を収縮する働きも弱くなり、最終的に足腰が弱ってしまいます。適量の塩分は毎日の生活に必要ですが、少なすぎても身体にとって悪影響を及ぼします。

健康なからだで腎臓の働きが正常な人は、余分の塩分は尿とともに排泄されるのでそれほど心配はありません。一時的に多くの塩分を摂ったときには水を飲んで早く体外に排泄する方がよいです。過剰の塩分は身体に悪い事は知りつつも、日本人、特に高齢者は多めの塩分を摂取する人が多いのが現実です。しかし、高齢者の場合は腎臓の働きが衰えていますので、過度の塩分の摂取は避けた方が無難です。どれくらいが適量か。厚生労働省が推奨する摂取量を参考にして、それから大きく外れない程度に「ほどほどに」に摂るのが長寿の秘訣でしょう。                      (2016年5月1日記)


32. 肉食のすすめ

そもそも我が国で牛肉を食する文化は明治時代に遡ります。当時、「牛肉を食べることは、文明開化の洗礼を受けることである」といわれていました。やがて「牛肉は滋養によい」という福沢諭吉の影響もあって牛鍋を食べさせる店が現れました。牛鍋屋は急成長し、明治6年ごろの浅草、神田界隈だけで74軒、明治10年ごろには東京で558軒にもなったといいます。牛鍋は、江戸時代後期に人気のあった鴨鍋やぼたん鍋(猪肉)などの調理法を取り入れた鍋物です。明治時代から、肉食はいきいきと暮らすためには欠かせない食物だったのです。

100歳以上の人(百寿者)の数は5万人を突破しました。最近の調査によると、元気な百寿者で肉を食べている人が増えていることがわかりました。肉の理想的な食べ方は、肉の2~3倍の野菜・海藻を食べる事です。野菜の中でも大根がお勧めです。大根の中にはジアスターゼという消化酵素が含まれているので、胃の中で肉などのタンパク質の消化を助けます。余談になりますが、焼き魚に大根おろしをそえるのは、大根のジアスターゼが魚のタンパク質の消化を助けるからです。ジアスターゼは市販の胃腸薬の中にも含まれています。

肉食については賛否両論があります。賛成派の意見は、「肉には必須アミノ酸がバランスよく含まれているので身体によい」ということです。「必須アミノ酸」とは何でしょうか。身体を構成しているたんぱく質は、約20種類のアミノ酸の組み合わせで出来ています。これらのアミノ酸の多くは身体の中で作られますが、その中で9種類だけは体内で作ることができず、食物から摂る必要があります。この9種類のアミノ酸を「必須アミノ酸」といいます。必須アミノ酸は身体の神経、筋肉などすべての働きを維持する上で重要な役割をもっています。

肉をはじめ牛乳、卵などの動物性食品はアミノ酸のバランスを考えると100点満点です。卵は必須アミノ酸を理想的な割合で含んでいる良質なたんぱく源で、そのたんぱく質の大部分はアルブミンです。アルブミンは肉にも豊富に含まれていて、身体の働きに重要な役割を持っています(後述)。卵白には肉と同様に種々の必須アミノ酸が含まれています。卵黄には多くのレシチンが含まれており、記憶力や学習能力の向上、認知症予防や症状の改善に役立つとして注目されています。

世の中では、卵は血中コレステロール値を上げるので食べない方がよいといわれていますが、最近の研究で一日1−2個食べても血液中のコレステロール量には影響しないことがわかりました。肉の場合も食べ過ぎなければコレステロール量が増える事はありません。その理由はこうです。血中コレステロールの8割は、身体の中にある生体成分を原料として肝臓の中で作られます。残りの2割だけが食物から摂取します。したがって、卵や肉に含まれるコレステロールが身体に入ったとしても、血中コレステロール量が極端に増加することにはなりません。

肉食に反対の人々は、肉の様な動物性たんぱく質をとりすぎると、過剰分は胃腸で消化されず、その結果、腸内で腐敗を起こして身体に悪い物質を作り出すといいます。アメリカ人は一日平均約300グラムの肉を食べる事は珍しくありません。それに比べて日本人の場合はせいぜい100グラム前後です。この量だったら、胃腸で十分に消化されるので全く問題ないです。 肉についてもう一つの不安。魚に含まれている不飽和脂肪酸のEPA, DHAなどは生活習慣病を防ぐ作用がありますが、肉に含まれている飽和脂肪酸はカロリーが高く、コレステロールを増やすといわれています。しかし、脂肪酸の研究が進むにつれて、飽和脂肪酸にもHDL(善玉)の働きを促し、LDL(悪玉)を減らすことがわかりました。また、牛肉や豚肉、オリーブ油などに多く含まれている不飽和脂肪酸のオレイン酸には、コレステロール降下作用があることが判明しました。そうはいっても、おなか回りや生活習慣病が気になるミドルエージ世代や高齢者では脂身の多い肉は控えめにしたほうが無難です。

アメリカの死亡率のトップは心筋梗塞です。その原因の一つは、一日平均300グラムの肉食による高脂肪、高カロリーの食生活です。そこで最近は肉を控えて魚、野菜中心の和食が爆発的人気です。「肉を控える」といっても肉食をやめるわけではありません。彼らの目標値は100−150グラムに減らすという事です。つまり、現在の日本人の肉食と同じ程度です。これくらいの量だったら、体力を増強しカロリーの面でも問題ないという事です。実際に欧米では肉食を改善することにより心筋梗塞患者を減らす事が出来ました。

一日に必要なたんぱく質の量は体重1キロあたり約1グラムといわれており、その中で、動物性たんぱく質と植物性たんぱく質の割合は1:1が理想とされています。体重50キロの人では、一日に必要なたんぱく質の量は約50グラムで、その中で動物性たんぱく質の割合は、肉、魚、牛乳、卵を含めて25グラム程度です。 肉食で気になるのはカロリーです。成人の摂取カロリーは,一日1,800~2,200キロカロリーとされていますが、実際は性別や体格で基礎代謝量に差が出るため、あまり正確な数値ではありません。ご参考までに日常生活の中で飲食しているもののカロリーを示します(数字はキロカロリー)。

 ご飯150グラム(1膳)252;醤油ラーメン480;うなぎ蒲焼293;
 本醸造酒1合(180ミリリットル)193、ビール1缶(360ミリリットル)144、ぶどう酒(ロゼ)1杯(80ミリリットル)62、ウイスキー1杯(20ミリリットル)47、ビール中ジョッキ(435ミリリットル)174;
 野菜類はすべて100グラムあたり50以下

 さて、肉はどうでしょうか。調査の結果、肉のカロリーは種類や部位によりかなり差があることがわかりました(数字はキロカロリー、資料により多少異なる)。

牛肉や豚肉といった赤身肉は、高齢者にとって不足しやすい鉄分、亜鉛、ビタミンB12といった「造血の栄養素」を多く含んでおり、高齢者の貧血リスクの予防にも役立ちます。

肉が身体に良いのは血液中の「アルブミン」を増やすからです。アルブミンは血液中の総たんぱく量の50−70パーセントを占めており、筋肉や血管、免疫細胞がうまく働くために必要不可欠な成分です。高齢者の場合、血清アルブミン値が低下すると、認知症の前段階である認知機能が正常値の人に比べて50パーセントに低下するといわれています。また、心臓病や脳卒中の危険性は2.5倍に上げる事が知られています。さらに、筋肉の減少や免疫機能の低下、血管がもろくなるなどの障害が生じます。医師が患者や高齢者の栄養状態を判断する項目として最も重要なのがこのアルブミンです。肉を食べる事により、血清アルブミンが血管を強化し、心臓病や脳卒中、認知症を防ぎ健康寿命につながることがわかってきました。

ステーキを食べるときには焼き方によってうまみが異なります。肉のうまみ成分はグルタミン酸ナトリウムとイノシン酸ナトリウムです。グルタミン酸ナトリウムは味の素の主成分で、イノシン酸ナトリウムは鰹節のうまみ成分です。焼き加減とうまみ成分の関係を味覚センサーで分析した結果があります。それによると、ミディアムレア(3.25)とレア(3.18)では大差はありませんが、ミディアムウエルダン(2.86)だと、うまみの数値がかなり下がりました。ミディアムウエルダンの様に焼く時間を長くすると、うまみ成分が肉に含まれている糖分と結合して減少するからです。肉を食べるときはミディアムレアがお勧めです。

まとめ
海外では和食が世界遺産に認定されたこともありブームになっています。それと同時に、日本国内では肉食を好む人が増えています。肉には良質のタンパク質が豊富に含まれているので、高齢者にとってもよい食材ですが、肉に偏った食生活は避けなければなりません。肉と魚を1対1でバランスよく食べることが必要です。また、肉を食べるときにはその2~3倍の野菜・海藻等を十分に摂ることが勧められています。これまでの魚だけの食生活をちょっと変えてみるのも健康長寿の秘訣といえるかもしれません。 ちなみに、私は数年前から無性に肉を食べたくなることが増えました。加齢が進んで体力が消耗し始めている証拠かもしれません。そこで、身体の要求に応えるために最近では月に1−2回の肉食を楽しんでいます。                        (2016年6月1日記)


33.血圧が異常になったとき

血液は全身を一周する間に、人間が生きていくために欠かせないさまざまな働きをします。身体に張り巡らされた血管をつなぐと約10万キロにもなり、その長さは地球約2.5周分に相当します。その血管の中を血液が絶え間なく流れて、全身の細胞に酸素を供給し、新陳代謝により産生された炭酸ガスや老廃物を回収して体外に廃棄します。また、食物に含まれる栄養分やビタミンも血液を介して各臓器に供給されます。

血液の容量は体重の約13分の1ですので、体重60キロの成人では、約 4.6リットルの血液が全身を流れている事になります。一般に健康成人はその全血量の3分の1以上を失えば失血死をきたします。

動脈、静脈、毛細血管の違い
血管には動脈、静脈、毛細血管の3種類があります。血液の流れの起点は心臓です。心臓から出るのが動脈で、体内の各臓器から心臓に戻る血流が静脈です。 毛細血管は全身にくまなく配置されて、各臓器に酸素を供給し物質交換を行っています。心臓は1日に10万回もドキドキと休むこともなく動き続け、2リットルペットボトルで約2本~2本半ほどの血液を、毎日からだのすみずみまで送り続けています。心臓の大きさは自分のにぎりこぶしくらいの大きさです。こんな小さなものが毎日毎日ひたすら70〜80年もの間休まずに動き続けるのです。

動脈は外からは見えませんが、手首や首の付け根(頸部)など脈を打っているところが動脈です。身体で唯一外から直接動脈や静脈の血流の状態を観察出来る部位は眼底です。人間ドックや眼科で行われる眼底検査は、単に眼科の病気(白内障、緑内障、加齢黄斑変性)の診断に有効なだけではなく、眼底血管の状態を見ることで動脈硬化、糖尿病、脳梗塞、脳腫瘍、心疾患(狭心症や心筋梗塞など)、高血圧などのリスクを予見することが出来ます。

動脈のなかでもっとも太いのは、心臓からの出口にある大動脈で、その太さは成人の場合直径が約3センチもあります。それが段々枝分かれし、動脈(0.4センチ)から静脈(0.5センチ)に変わり毛細血管では直径がわずか0.01ミリです。それは髪の毛の十分の一以下の太さです。

一方、静脈は手の甲や足のふくらはぎなどで浮き出て青く見える血管です。動脈と静脈の大きな違いは、動脈は心臓からの血圧により血液を全身に送り出していますが、静脈の血圧は動脈に比べたら極めて低いかほぼゼロに近い値です。静脈の太さは場所によって異なりますが、全身の血液を集めて心臓に戻る入口のところの大静脈が最も太く、その直径は約3センチです。

血流は新幹線なみの速度
血液の流速は部位によって異なります。心臓は収縮と弛緩(しかん)を繰り返して血液を全身に送っています。血液は心臓→大動脈→動脈→細動脈→毛細血管→細静脈→静脈→大静脈→心臓の循環を繰り返しています。心臓の出口の大動脈から血液を押し出すときの収縮期の流速は1秒間に約120センチです。これは新幹線なみの速度です。それに対して、収縮に続く拡張期(心臓に血液を溜め込むとき)の流速はほぼゼロに近いです。これらを平均すると、動脈の血流速度は1秒間に約50センチ程度になります。これは時速にすると180キロです。

大動脈から身体のすみずみに進むにつれて、血流の速度は徐々に遅くなります。毛細血管の場合、一本では髪の毛よりも細いですが、本数が血管全体の99パーセントを占めるため、動脈、静脈のすべての血管の総断面積比では大動脈の600~1000倍となり、そのために血流が遅くなり1秒間でわずかに約0.05センチの速度です。

心臓に戻るルートとして、毛細血管から静脈に入ると、血流は少しずつ速くなります。大静脈を通る血流は、1秒あたり約15センチの速度です。体内の血管は一筆書きの様につながっているので、身体の中の全血液は約1分で一循することになります。

動脈の血液は新幹線なみの速度で血管の中を流れているので、動脈の血管壁には血流による衝撃が常にかかっています。若い人の血管は柔軟性があるので衝撃を吸収しながら血液を送っていますが、高齢者の血管は古くなったゴムホースと同じく弾力を失って固くなっています。血管が固いと衝撃を上手に吸収できなくなり、血管への衝撃が大きくなり傷つけます。また、傷ついたところでは血液の塊が出来ます。これを「血栓」と言います。この血栓が心臓の中の動脈に詰まって血流が滞ると、「心筋梗塞」になります。また、血流にのって脳に運ばれて脳内の動脈を塞ぐと「脳梗塞」になります。

血圧の仕組み─最高血圧と最低血圧
 通常“血圧”と言ったら心臓から出る動脈の圧力を指します。蛇口からホースで撒水するとき、ホースは水圧のためにピンと張った状態になります。心臓が収縮して大動脈から血液を押し出すときに血管壁の圧力が最も高くなります。これを収縮期血圧もしくは「最高血圧(上の血圧)」といいます。反対に、心臓が弛緩(拡張)するときには血圧が最も低くなります。これを拡張期血圧もしくは「最低血圧(下の血圧)」といいます。

静脈は動脈の様な血流による衝撃が殆どないので血圧はほぼゼロです。それではどのようにして血液を心臓に運ぶのでしょうか。心臓よりずっと低い位置を流れる血液は、おもに血管の近くにある筋肉の動きによって血液を心臓に戻します。例えば、下肢のふくらはぎには“筋肉ポンプ”と呼ばれる機能があり、筋肉が収縮と弛緩を繰り返して血液を心臓の方へ押し出します。ずっと動かずに、同じ体勢でいると血液の循環は悪くなります。「エコノミー症候群」がその例です。歩くことが身体によい理由は、有酸素運動と同時に、歩くことによりふくらはぎの筋肉ポンプが活発に動いて,重力で下肢に溜まっているふくらはぎの血液を心臓に効率よく送りこむからです。

高血圧の病気
 高血圧のみならずすべての病気について薬物治療を開始する場合、医師は「標準治療」に従って薬を選択します。それは多くの臨床試験の結果をもとに専門家が最も効果があると合意された治療法です。その中で最初に使用する薬剤を「第一選択薬」といいます。日本高血圧学会が2014年に公開した「高血圧治療ガイドライン」によると、降圧薬の第一選択薬は次の4種類の中から選択することが推奨されています。

 降圧薬の種類
・アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)(エーシーイーそがいやく)
(例)カプトプリル、レニベース、アデカット、セタプリル、エースコール、タナトリル ほか多数
・アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)
(例)ブロプレス、ミカルディス、オルメテック、イベルタン、ニューロタン ほか多数
・カルシウム拮抗薬
(例)ヘルベッサー、ノルバスク、アムロジン、カルブロック、ペルジピン、アダラート、ニバシール、ヒポカ、カジュエット ほか多数
・利尿薬
(例)サイアザイド系利尿薬またはサイアザイド類似薬:フルイトラン、バイカロン、ノルモナールほか

臨床ではARBと利尿薬、ARBとカルシウム拮抗薬といった合剤(配合剤)が近年増えていますが、これらは第一選択薬から除外されました。しかし、必要に応じて医師の判断で使われています。

β(ベータ)遮断薬の位置づけ
 上記の4種類の第一選択薬の他に、昔から広く使われている降圧薬としてβ遮断薬があります。(例)アテノロール、ケルロング、ロプレソール、セロケン、アセタノール、インデラルほか多数

これまで世界中で広く使われていた上記のβ遮断薬が、日本、米国、英国では2014年のガイドラインで第一選択薬として採用されませんでした。なぜでしょうか。それは、「β遮断薬は、第一選択薬に挙げられた他の4種類と同様に高血圧の治療効果は知られているが、その効果は他の薬に比べて小さく、さらに、糖尿病を引き起す作用がある」との理由です。しかし、第一選択薬から外されたとしても、臨床医の間では今でも高く評価されて使われています。

低血圧の病気
 低血圧の病気には急性と慢性があります。急性低血圧を示す原因として、 (1)出血・脱水などの循環血液量の減少 (2)心不全などの心臓の働きが低下した場合や、重症不整脈  (3)降圧薬の過剰投与、睡眠薬・麻酔薬などによる薬物中毒などがあげられます。病気や事故などで心臓の働きが弱まると血圧が異常に低下します。それにより脳への血流が低下し意識が薄くなります。また、急性の低血圧になると、腎臓での老廃物のろ過、排除機能が低下するので、体内にそれが溜まり、最終的には尿毒症になり死に至ることがあります。低血圧の治療は高血圧に比べて非常に厄介です。

一方、慢性的な低血圧症とは、一般に収縮期血圧(上の血圧)が100未満をいいます。まったく症状がない人から、立ちくらみ、めまい、失神(一時的な意識消失発作)、全身のだるさなどの症状を伴う例までさまざまです。自覚症状がない場合や、日常生活に影響を及ぼす症状がみられない場合は治療の必要はありませんが、自覚症状で具合が非常に悪くなったら治療が必要になります。低血圧の症状を改善する薬には昇圧剤(一時的に血圧を上げる薬)、自律神経調節薬などがありますが、作用が強いので医師の指示により慎重に行う必要があります。

まとめ
 血管の老化で最も問題になるのは、動脈の内壁が厚く固くなる「動脈硬化」です。これは心筋梗塞や脳梗塞の原因にもなります。脂質異常症(高脂血症)などで血流がドロドロ状態でスムーズに流れなくなると、全身に酸素や栄養素が行き渡りにくく、老廃物の排出も滞ってしまいます。最近は血めぐりの悪い人が増えています。その原因は、食生活の変化、運動不足などさまざまですが、なかでもストレスによる慢性的低血圧症は深刻です。ストレスになると手足の血管が収縮し、血めぐりが悪くなり、その結果、冷えや肩こり、腰痛、胃腸の不調、肌あれなど、さまざまな不調を引き起こします。こんなとき、体の外側から温めてあげるのも血行改善には効果があります。 身体に異常が出ると必ず警告信号を発してくれます。そんなときは無視しないで躊躇せずに病院に行くことをお勧めします。病院に行って医師から「特に異常はありません」と言われたらそれで安心です。                       (2016年7月1日記)


34. 処方薬は医師の裁量

最近、「薬は身体によくないから使わない方がよい」、「薬をやめれば病気は治る」、「薬が危ない」、という内容の本が書店に氾濫しています。これらの本はこぞって「薬は悪者だ」の大合唱です。確かに、世の中には薬の副作用や毒性で苦しんでいる人や、不幸にも亡くなる人もいます。

こんなとき、「医師の診断、処方薬は間違いない」と信じている患者は、「悪いのは薬だ」と疑いません。薬はそんなに悪者でしょうか。これまで人類に多くの貢献をしてきたのに、どうしてこんなに悪人扱いされるのか。薬局の倅として生まれ、これまで80年余薬に関わってきた者としては一言述べたい心境です。ちなみに、これまでに医療革命ともいうべき薬の三大発見があります。

第一は、100年以上前に発見されたアスピリンです。アスピリンは風邪のときに解熱鎮痛薬としてよく使われます。米国で最も人気の高い薬はアスピリンです。米国オレゴン州立大学の研究グループが、予防医学の国際誌である「米国予防医学誌」の2015年4月16日号に掲載した調査結果が大きな話題になっています。45歳から75歳まで、平均60歳の2500人を対象として実施した結果によると、調査対象者の52パーセントがアスピリンを飲んでいました。米国では大人の半数以上がアスピリンを飲んでいる事になります。何故か。調査結果によると、アスピリンを飲んでいる主な理由は、心臓発作予防が84パーセント、脳卒中予防が66パーセント、がん予防が18パーセント、アルツハイマー病予防が11パーセントでした。
 アスピリンを飲んでいる人の傾向としては、よく運動し、健康的な食事を摂り、たばこを止めようと心掛け、人間ドッグを受けている人が多かった。健康を気にする人がアスピリンを飲む傾向があるようです。ちなみに、アスピリンの副作用として出血が知られていますが、常用量ではそれほど心配は入りません。服用を希望するときには必ず医師と相談して下さい。

第二の薬はペニシリンです。1929年に英国のフレミング博士により最初の抗生物質(最近は抗菌薬とも言います)として発見されました。当時は肺炎などの感染症に効く薬はなかったので、ペニシリンは世界中の感染症患者に大きな恩恵を与えました。ちなみに、感染症の病原体には2種類あります。細菌とウイルスです。肺炎は細菌による病気なので抗生物質が効きますが、風邪の様なウイルスによる感染症には抗生物質は効きません。

第三は1944年にドイツのワックスマン博士らにより発見されたストレプトマイシンです。この発見により、それまでは「不治の病」だった結核が「治る病気」になりました。フレミング(1945年)とワックスマン(1952年)はそれらの功績によりノーベル生理学・医学賞を受賞しました。ペニシリンとストレプトマイシンの発見により、抗菌薬の研究に加速がかかり、それからどんどんと新しい抗菌薬が発見されていきました。

さて、風邪で病院へ行くと解熱薬(げねつやく)、胃腸薬、鎮咳薬(咳止め)、抗生物質(抗菌薬)、去痰薬(痰を出す薬)、抗アレルギー薬、漢方薬などなど、多い人は10種類以上もの薬が処方されます。昔はどこの病院でも風邪の患者にはアスピリンと消化薬を処方し、「薬を飲んで2−3日静養して下さい」というのが医師の常識でした。身体の自然治癒力により2、3日後には風邪は治ったものです。なぜ最近の医者はこれほど迄に多くの薬を出すのか。医師の間では自信のない診断をした医師ほど処方箋に書かれた薬の数が多いのは無言の了解になっています。

処方薬が多いのは、医師の言い分だけではない様です。患者の中には、病院で診察を受けたとき、「今日は薬は必要ありませんよ」という医者よりも、薬を処方してくれる医者の方がより親切で信頼がおける様に感じる人が少なくないのです。患者にとって本当に大切なことは、「必要な薬を必要な量だけ」服用することです。

高齢者には若い人に見られない特有の病気があります。例えば、尿失禁、頻尿などの泌尿器科疾患、難聴、不眠、転倒など。これらをひっくるめて「老人症候群」と呼んでいます。こんなとき、患者は泌尿器科、耳鼻科、内科など複数の診療科からそれぞれ薬が処方されるのでたちまち10種類以上にもなります。薬の種類が多くなればなるほど飲み合わせによる副作用が出易くなります。何種類までが安全か。薬の種類により違いますので一概にはいえませんが、日本老年医学会では5種類を一応の目安としています。

薬は多く飲めば効き目が大きいと考えたら大間違いです。決められた量以上飲むと、効果は同じで副作用、毒性だけが増えます。こんな例がありました。70代の人が肩が凝ったので医師が処方した1日1錠の薬を1ヶ月程飲みました。しかし、病状は一向に改善されません。医師に伝えたところ、薬を2錠に増やしました。増量した翌朝身体がフラフラして歩くのも大変な状態になりました。医師にその事を伝えました。医師が投与量を1錠に戻したらフラフラが治りました。薬は必要量以上飲まないのが鉄則ですが、医師は処方薬の効果だけを考えます。ある日突然増量されたら、必ず医師にその理由を尋ねて下さい。

患者にとって災難とも言うべき事は、医師が自分で処方した薬による副作用を新たな病気と勘違いして、その副作用を治すために新しく薬を出すことです。こんな実話があります。ある高齢者の患者が高血圧のため降圧薬を処方されました。降圧薬の中には咳がでるものがあります(ACE阻害薬、本シリーズ33話参照)。その患者は降圧薬をしばらく飲んでも高い血圧が下がらなかったために、医師は薬の量を増やしました。その結果、咳が一段とひどくなったので、患者は医師に「最近咳がひどくなったのですが」と伝えました。そこで医師は咳止めを処方しました。

しかしそれでも咳が止まらないので、医師は肺の細菌感染を疑って抗生物質(抗菌薬)を処方しました。抗菌薬を飲むと、多くの人々は1−2日後に腸の善玉菌が減少するので下痢になります。その患者も下痢が続き、ついには脱水症状になりました。つまり、最初の降圧薬の増量により、その副作用である咳を医師は見極める事が出来なかったために、患者は必要のない薬を飲まされる羽目になったのです。これは医師の薬に関する知識の乏しさによるものです。

処方箋を作成出来るのは、医師、歯科医師、獣医師だけに与えられた特権です。処方箋に書かれる薬の種類と量は医師の経験と判断で決まります。つまり、処方薬は医師の裁量で決まるのです。しかし、医師の主な仕事は診断と治療で、医学部での教育では薬に関する講義は極めて少ないのが現状です。臨床医の薬に関する知識は、本人の経験、先輩医師からの助言、研究会などで得られた情報です。それに基づいて処方薬を決めます。また、病院を定期的に訪問する各製薬会社の医薬情報担当者 (MRと言います)からの新薬に関する情報も、処方薬を選択するときには大きな判断材料となります。

高齢者の場合、処方薬の量を年齢に応じて少なくするのが常識です。日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン」によると、成人の場合の正常値は上が129以下、下が84以下です。また、成人での高血圧の診断基準は、上の血圧が140-159、下が90-99です。これを「I度高血圧」と言います。140を超えると医師は降圧薬を処方します。

しかし、高齢になると正常値がぐんと上がります。70歳代の高齢者の正常値は上が145、下が80です。この正常値を保っているのは日本の高齢者の2割程度しかおらず、この年代の高齢者の65パーセントは高血圧患者で降圧薬を飲んでいます。日本高血圧学会では、60代は140/90、70代は150/90、80代は160/90を正常値としています。血圧が少し変動しても一喜一憂することはありません。血圧は常に動いています(本シリーズ33話参照)。それが生きている証拠です。

75歳以上で歩くのが不自由な人が成人と同じ量の降圧薬を飲むと、血圧が下がり過ぎて足下がふらついたり、転んで骨折などの危険性があります。経験豊富な医師は、高齢者に対して一律に上の血圧を140以下に下げるのではなく、個人ごとに投与量や薬の種類を決めて処方します。それが名医です。

高齢者にとって血圧とともに気になるのがコレステロール値です。米国では1日平均300グラムの肉を食べるなど肉食中心ですので、体内で脂肪が蓄積し、血中コレステロールの増加により多くの人が心筋梗塞で亡くなっています。これを防ぐ薬がコレステロール低下薬のスタチン系薬剤(代表的商品名メバロチン)です。米国では爆発的に使われて、それにより心筋梗塞による死亡率が激減しました。

しかし、日本では90−100グラムの肉を魚や野菜と一緒に食べる習慣がありますので、欧米ほど極端にコレステロール値が高くなりません。事実、日本ではスタチンを使っても心筋梗塞患者数は減少しないとの報告があります。心筋梗塞はコレステロールを下げるだけでは防げないのです。また、専門医のグループが15年かけて行った調査では、コレステロール値が多少高めの人が長生きすることが分かりました。欧米の健康常識が日本にすべて当てはまるとは限りません。

おわりに 最近の患者は自分の病気や薬についてインターネットで調べたり、「家庭の医学」などの書籍でかなりの知識を持っています。病院でも昔ほど医師と患者との上下関係がなくなり、患者が医師に対して躊躇なく意見を述べたり、質問したりするケースが増えました。セカンドオピニオン制度もかなり普及しました。これは大変好ましいことです。 診察室の中で「新薬が出ましたのでそれに切り替えましょうか」と医師に言われると、患者はそれを断る理由がありません。「お願いします」という患者の承諾で新薬の治療が始まります。しかし、新薬については医師も経験が少ないので、自信がないまま処方箋を書く事が少なくないのです。新薬は突発的な副作用があらわれることがあります。薬を飲んで具合が悪くなったら、躊躇しないで担当医に伝えて下さい。それが薬を安全に使うコツです。                      (2016年8月1日記)


35. 加齢と老化は別もの

定年を過ぎる頃になると、だれでもいつまでも若々しく生きたいと願うところです。あなたの知り合いにも「どうして、この人はなんで若く見えるんだろう」という人がいるに違いありません。歳をとること(加齢)と老いる事(老化)は混同され易いのですが、必ずしも同じではありません。

加齢とは単に歳をとることですが、老化は歳とともに内臓の働きが悪くなり、精神的、肉体的に活動が落ちたり、視力、聴力の低下やど忘れを感じて不安になることです。老化は高齢者だけの問題ではありません。40代−50代の働き盛りのときからそれは始まります。白髪が増える、髪の毛が薄くなる、顔のシワが増える、などはだれでも経験する老化の一般的な現象です。

一般的な老化現象とは違って、高血圧、骨粗鬆症、動脈硬化、脳卒中、様尿病などはすべての人にみられるわけではありません。これらは老化によるのではなく、たまたま一部の人々に多くみられる病気なのです。高齢者に限らず40代、50代でも高血圧、糖尿病で治療している人が多くいます。これらの病気は薬や運動である程度は健康を取り戻すことは出来ますが、加齢は逆戻りできません。能力や貧富に関係なく誰でも毎年一つずつ歳を取るのです。

白髪って染めたほうがいい?それとも諦めてそのままにしたほうがいい?いろいろな意見があります。見た目を考えるならばやはり白髪染めをした方が少しでも若々しく見えるので、本人にとっても嫌な思いをしない筈です。しかし、上品な白髪の高齢婦人も決してみぐるしいものではありません。

定年になると他人との接触が少なくなり、身だしなみにも無頓着になります。それは、世の中の人々の目がこちらに向いていないと考えて安心するからです。しかし事実は逆です。無精髭を気にしない様な生活は自分から他人との接点を失う事になります。高齢者にとって必要以上に若く作る必要はありませんが、こざっぱりな服装をすること、身なりを整えること、身体を清潔に保つことが若さを保つには必要です。

脳の専門医によれば、身なりをきちんとしている人の脳は、MRI検査の画像でも実年齢よりも若いそうです。逆に身なりが老け込んでいる人は、脳も老け込んでいることがわかりました。70代の人でも50−60代の人と変わらないMRI画像の人もいます。おしゃれな人や、言葉がしっかりしている人は脳の状態も若いと言われています。高齢者が精神的に自立するためにはどうやら身だしなみが大事な様です。

高齢になると記憶力が落ちる上に、生活の中での刺激が少なくなります。刺激が少なくなると脳は活動する必要がなくなったと勘違いして休止状態に入り、その状態が半年以上続くと認知症と診断されることがあります。認知症は高齢になって突然現れるものではなく、人によっては40代、50代から始まる事があります。認知症の予防対策は40代から心がけるべきと言われています。それには仕事以外に趣味を持つ事がよいとされています。気のおけない仲間とゴルフ、テニス、旅行、囲碁、将棋、カラオケなどの時間を過ごす事は、脳をリラックスする効果としては最高です。

専門医によると、認知症の初期症状には次のようなことがあげられます。

職場で重度のストレス状態が何年も続くとうつ病の原因になり老化を進めることはよく知られています。うつ状態は本人の自覚がないことが多いので、見過ごされがちです。日頃の活動や趣味などへの関心が失われると、毎日の生活全体への意欲がなくなり、気持ちが沈んでうつになり、やがて認知能力が低下する事が少なくありません。

うつ状態を判別するためにはどうしたらよいでしょうか。病院でもよく使われる観察項目は次の通りです。

この中でいくつかの症状が続いたら医療機関で相談されることをおすすめします。

さらに一言
 考え方が老け込むと肉体も老け込みます。そうならないためには、何でもよいから好奇心、趣味を持つことが効果的です。他人と関わり、コミュニケーションをとることにより脳は活性化されて若さを保つ事が出来ます。国内、国外の旅行も老け防止には有効です。

余談ですが、私は1995年に国際学会の役員になってから2010年頃までの間、年に2−3回開催される国際会議への出席の後で、個人的に1−2日の旅行を楽しみました。好奇心旺盛な私は海外の観光地を訪ねて現地の人々とふれあい、地元でよく食べられる物にもチャレンジしました。ベルギーでは友人が連れて行ってくれたレストランで、バケツ程の大きさの容器に一杯のムール貝を食べたのも忘れられない想い出です。日本程安全な国はない事を痛感した出来事にも多く遭遇しました。自分では自覚しなくとも海外旅行には適度な緊張が必要です。これは脳や身体の働きを刺激して少しは老化を遅らせてくれた様です。これまで30カ国を旅して 色々な体験をしました。お時間がありましたら拙文のシリーズ「旅のこぼれ話」をご覧下さい。
 閑話休題。

老化の特徴の一つは個人差が大きいことです。同じ年齢でも人によりその容姿が大きく違います。どうしてこんな違いが出来るのでしょうか。それは気持ちが一番です。もう70歳だから、という人と、まだ70歳だから、という人では、見た目も凄く違います。何十年ぶりの同級会で会った昔の友人の変わり様に愕然としたご経験をお持ちの人は多いと思います。「加齢は平等」、「老化は不平等」です。

心を若く保つことは身体を若く保つことに直結するということは多くの医学的研究から明らかです。脳は使わなければ老化します。使えば使うほど若さを維持することができます。筋肉と違って「脳は疲れない」と言われています。勉強や仕事で脳が疲れたと感じる時は、脳そのものではなく眼が疲れていることがほとんどだそうです。脳は情報を記憶し処理するだけでなく、身体全体のコントロールセンターです。脳を衰えさせないことが身体を老化させないために最も大切なのです。 今回は自戒を込めてこの小文をまとめました。                  (2016年9月1日)


36. セルフメディケーションの行方

最近、新聞、テレビなどのメディアで「セルフメディケーション」をよくとりあげています。何でしょうか。典型的な外来カタカナ語で適当な日本語訳がありませんが、直訳すれば「自分で薬物治療をすること」、「自分で自身の健康を管理する」こととなります。糖尿病、高血圧などの生活習慣病が問題になっている現代において、毎日をいかに健康に生きるかが問われています。そこで注目されているのが「セルフメディケーション」です。

世界保健機関(WHO)によれば、セルフメディケーションとは、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」と定義しています。つまり、ちょっとした身体の不調は、病院・診療所へ行くのではなくて、自分で薬局やドラッグストアで薬剤師と相談して薬を使用することです。それにより、自分の健康に関する意識が高まり,また、ちょっとした体の不調のときでも、医療機関で受診する手間と時間が省かれます。

セルフメディケーションの本質
私たちの身体には、病気を予防したり、病気や怪我などから回復するための力が備わっています。これを「自然治癒力」といいます。薬はこのような自然治癒力を助けて、少しでも早く体力を回復させたり、病気の原因を取り除いたり、症状をやわらげたりするのに役立ちます。しかし、薬の種類や投与量について間違った使い方をすると、症状が改善されないばかりか、かえって悪化することがあります。的確な薬を正しく使用する知識が必要です。

薬について疑問がありましたら、専門家である薬剤師や登録販売者などにご相談下さい。登録販売者とは、都道府県で開催される薬の販売に関する試験に合格して、都道府県知事の登録を受けた者です。この試験は国家資格ではなく、国に代わって都道府県が実施する公的な資格になります。ドラッグストアには、販売資格を有する薬剤師と登録販売者が常駐しています。

また、食事や運動などを通して日常生活を改善し、それにより病気にならない様に心がけることも大切です。栄養バランスを考慮した規則正しい食事、年齢や生活環境に適応した運動は、身体機能だけではなく脳を活性化し、老化防止、疾病予防につながることは医学的にも証明されています。これらは広義のセルフメディケーションと呼ばれています。

かかりつけ薬剤師
国ではかかりつけ医と同様に、自分の体質や病状に合った薬を適切に使用するために、「かかりつけ薬剤師」を決めることを奨励しています。薬剤師は、医師から処方された薬とサプリメント、健康食品、機能性食品などとの飲み合わせによる副作用などについても相談にのっています。 また、政府は平成28年に地域の健康政策として、街の薬局のなか、調剤のみならず市民の皆さんが健康維持、疾病予防について気軽に相談出来る「健康サポート薬局」制度を決めました。

「健康サポート薬局」制度
厚労省は平成28年2月12日付で「健康サポート薬局」制度を告示しました。それによると、健康サポート薬局とは「患者が継続して利用するために必要な機能及び個人の主体的な健康の保持増進への取り組みを積極的に支援する機能を有する薬局をいう」とあります。薬局の業務体制や設備について一定の基準(厚生労働省告示)に適合する薬局が、都道府県知事等に届出(平成28年10月1日以降)を行うことにより、「健康サポート薬局」である旨の表示ができる制度です。

市販薬を上手に使う
かぜ気味だ、頭が痛い、胃腸の調子が悪いときには、街の薬局やドラッグストアで薬剤師に症状を説明すると、適切な市販薬(OTC医薬品)(下記参照)をすすめてくれます。軽度な身体の不調は病院へ行くことなしに自分で手当てすることができます。しかし、2−3日薬を飲んでも症状が改善されないときは、近くのかかりつけ医で受診することをお勧めします。

医師の診察が必要なとき
セルフメディケーションは市販薬を使って自分で病気を治すことですが、がまんできないほどの痛みや、いつもとは異なる症状のときは、自己診断して手当が遅れると大変なことになります。胃の痛みがあり血を吐く(吐血)などの出血を伴うときや、 頭痛と吐き気、めまいと吐き気など異なる症状の組み合わせ、などの症状があるときは直ちに病院で受診して下さい。また、かぜや頭痛などのときに自分でOTC薬を飲む場合でも、2~3日しても症状が改善されないときは、医師の診察が必要です。市販薬を用いたセルフメディケーションには限度があります。病状によっては病院での受診のタイミングを失わないことが大切です。
 次の症状があるときにはかかりつけ医や病院での受診をお勧めします。

セルフメディケーションの隘路
高齢者は肝臓、腎臓など多くの臓器の働きが低下しているので、病気にかかると急変することが少なくありません。適切に手当てをしないと急に症状が悪化して亡くなることさえあります。したがって、高齢者はちょっとした体の不調にも敏感に反応し、病院へ通う人が多い。事実、大学病院などの大規模病院の外来は高齢者で溢れています。これは国のセルフメディケーション政策に逆行するものかもしれません。

しかし、こんな考え方もあります。セルフメディケーションの推進というと「医者いらず」だとか「受診者減らし」と言われていますが、むしろ軽症なうちに治療し、医療費の節約を計ることも大切です。高齢者が重症になる前に受診して簡単な治療で回復するのもセルフメディケーションの効用です。

医療費は何故増えるのでしょうか?
高齢者が増えれば、老人は病気に罹ることが多いので一人一人の医療費は同じでも総額の医療費は多くなります。厚労省が平成27年9月3日に発表した平成26年度の「医療費の動向」によると、前年度に比べて1.8パーセント増加して40.0兆円に達し、過去最高額となりました。相変わらず目立つのが高齢者の医療費増加です。それは医療費全体の36パーセントを占めています。年齢別にみると、75歳未満の人々が使った医療費は一人当たり年間21万1,000円でしたが、75歳以上の後期高齢者では93万1,000円となり74歳以下に比べて4.5倍近くに増えています。65歳未満の現役世代が使う医療費は74歳未満よりも少ないです。人口の高齢化に伴って高齢者の医療費が増えるのは仕方のないことです。

高齢化以外に医療費が増える他の要因は、新しいタイプの新型抗がん剤など高額な医薬品を使う患者を補助する目的で、健康保険は患者が負担する医療費に月額ベースの上限を定める「高額療養費制度」があります。がん患者は必ずしも高齢者のみではありませんが、「高額療養費制度」を受けている患者は年々増加しています。それも医療費の膨張の一因となっています。

おわりに
厚労省は医療費の膨張を抑制する計画として後発薬(ジェネリック医薬品)の普及を促進しており、医薬品全体に占めるシェアを数量ベースで今の4割から2017年度末までに6割に引き上げる方針です。最近はどこの病院でもジェネリック医薬品が処方される様になりました。ジェネリック薬については、本シリーズの第17話をご参照下さい。

高齢者はちょっとした身体の不調でも、弱気になり最悪のシナリオを考えて医療機関に直行します。私も例外ではありません。診察の結果大事でないことが多いので、毎度老妻の顰蹙(ひんしゅく)を買っています。しかし、本人にとっては医師に診断して貰うことで取りあえずほっとするのです。これも老化の標(しるし)でしょうか。

追記:本稿の内容の正確を期するために、朋友の村田正弘博士(NPO法人セルフメディケーション推進協議会 会長代理)に貴重なご意見を頂きました。厚く御礼申し上げます。                      (2016年10月1日記)


37. なぜ人は他人の年齢を知りたがるか

昔は、長生きする人がそれほど多くはなかったため、長生きはそれだけ貴重なものとされていました。そのため、還暦(数え年61歳、満60歳)から始まって百寿(数え年100歳、満99歳、「ひゃくじゅ」もしくは「ももじゅ」)まで節目の年齢にはお祝いをすることが現在でも一つの文化として残っています。

かつては長寿の祝いには100歳が入っていなかったのですが、近年は白寿(数え年99歳、満98歳)よりは、むしろ百寿を祝うことが多くなりました。上寿(じょうじゅ)、紀寿(一世紀の意味)ともいいます。最近は長寿社会ですので、百寿以降も茶寿(108歳)、皇寿(川寿)(111歳)、頑寿(119歳)、大還暦(120歳)と節目のお祝いは用意されています。

ところで、皆さんは初対面の人と会話中に突然年齢を聞かれたことはありませんか。なぜ人は他人の年齢を知りたがるでしょうか。相手の年齢を知ったからといって、多くの場合それまでの話の流れが変わることはないのです。多くの日本人は年齢を基準に他人を判断したがる傾向があります。今回はそんなことを考えてみました。

年齢を聞くことにどんな意味があるか
テレビのリポーターが取材の中で、初対面の人に「ところで何歳になりましたか」と聞く光景がよくあります。これはどんな意図があるのでしょうか。年齢と風貌の一致を知りたいのか、取りあえず話をつなぐためなのか、単なる挨拶みたいなもので、どうでもよい質問なのか分かりません。相手が女性の場合、リポーターは「お年より随分お若く見えますね」と言います。中学生の場合は、決まった様に「若いのに随分しっかりしているね」と褒めます。決して、「年より老けて見えますね」とか「年の割には幼稚ですね」等とは言わない。確かにこの手の答えは、短時間にしろ相手との信頼関係をよくするのに役立ちます。しかしそれだけのことです。

テレビでの対談で、司会者が相手に向かって「ところで○○さんは何歳になりましたか」と聞かれて、妙齢のご婦人は途端にその質問を交わす事が出来ず、つい本当の年齢を答えた。その結果、それまで内緒にしていた実年齢が全国に知られる事となりました。こんな場面の司会者の意図はよく判りませんが、もし話の行きがかり上だったとしても、公共の電波でご婦人の年齢に触れる事はご法度です。

何の躊躇もなく突然女性に対して年齢を聞くことは日本固有の風習かもしれません。私が知る限り、欧米では子供やかなり親しい友人は別として、女性や高齢者の場合でも本人に直接年齢を聞く事はありません。少なくとも私は30年余り欧米の人々とつきあっていますが一度も聞かれた事はありません。あるいは他の日本人からすでに聞いているのかもしれませんが。

逆に、年齢が必要な記事もあります。テレビ、新聞紙上でお名前を見かける有名人がお亡くなりになったとき、その新聞記事について、その人の年齢と死因が気になります。「こんなに若くして亡くなって気の毒ですね」という場合と、「こんなに長命だったのですから寿命ですね」と言う場合があります。何を基準に判断するのか。それは平均寿命や自分の年齢と比較するからです。

先日76歳の方が亡くなった新聞の「お悔やみ広告」で、死因が「老衰」とあり愕然としました。平均寿命より若いのに老衰はないでしょう。家族が死因を明らかにしたくなかったのか、多くの病気を抱えていたのでしょうか。「老衰」は天寿を全うした百寿以上の人々に使われるべきです。

本能的に年齢を聞く理由
日本人が本能的に年齢を聞かれても抵抗がないのは日本語という言語が影響しているのかもしれません。上級生や先輩には敬語や謙譲語を使います。同じ年や年下ならばため口もきけますが、もし年長者にそんな事をしたら失礼に当たり,摩擦を生むからです。したがって、あらかじめ相手の年齢を聞いて適切な日本語を選ぶ手段とします。

私の限られた知識ですが、英語にも謙譲語や丁寧な言い回しがあります。しかし、家族の中で子供が父親、母親を彼he, 彼女sheと言うのを聞くと、習慣の違いと言え最初の頃は違和感を感じました。欧米でも年長者や初対面の人に対しては、Mr.○○、Dr.○○と呼び敬意を表します。年長者を名前で呼ぶ場合でも、決して雑に扱っている訳ではなりません。むしろ親しみを表します。

米国の「年齢差別撤廃法」
米国では1975年に「年齢差別撤廃法」という法律が施行されました。これは高齢者を保護するのが目的です。就職面接の際、能力や業績以外に年齢についての質問をしてはならないという法律です。年齢は能力と一切関わりないというのが米国流の考え方です。年齢を問うということは、それにより個人の能力を推定することになります。若者だから仕事ができて、高齢者だから出来ないと言う理屈はないからです。米国の大学教授には定年はありません。自分で研究が出来る限り大学で働く事が出来ます。私の友人の中には87歳で亡くなるまで現役の教授を務めた人がいます。

日本の「高年齢者雇用安定法」
年齢というのは動かし難い絶対の尺度ですので、決まった年齢により定年の時期を決めることには文句が言えないのです。しかし、年齢の老化度と能力の低下は必ずしも一致しないのも事実です。まだ余力を持ったまま定年を迎える人も少なくありません。そこで、日本政府は平成25年4月1日から「高年齢者雇用安定法」を一部改正し、施行されました。これにより会社の雇用を65歳まで定年延長する事が出来る様になりました。しかし、改正は定年を65歳まで引上げることを義務付けるものではありません。また、大学教員の場合も、60歳定年の大学では、毎年審査で承認された者は年次更新で最長65歳まで定年延長が可能となりました。

教育に年齢差は関係ない 一般の大学では入学時の年齢制限は原則としてありません。中でも医学部の場合は、他学部を卒業生した人が医師免許を取得するために医学部(医科大学)に編入または入学することは珍しくありません。そのため、10歳以上も年齢が離れている同級生がいます。これら年上の同級生と現役の学生の間には何の違和感もありません。大学を卒業して社会人になってからでも、新たに学びたいことが見つかれば勉強すればいいのです。また一部の大学には飛級制度があり、4年制の大学でも、大学側がその学生の優れた能力を認定すれば3年から就職、大学院進学が可能です。

逆に、卒業時に必修科目を含めた卒業の認定に必要な単位数を満たしていないと「留年」になります。時には経済的理由で自分から留年を希望する者もいます。留年した場合、在学できる期間は通常の在学期間の2倍までと決まっています。4年制学部では8年まで、医学、歯学、薬学、獣医学など6年制なら12年までです。私には貴重な経験があります。大学生のころ、私の1年上の先輩が留年して同級生になりました。さらに驚く事に、彼は我々の学年を通過して1年後に後輩として卒業しました。結局3学年の同級生を持つ事となりました。

米国の大学生、大学院生の中には、就学中に経済的に苦しくなると、休学して貯金を貯めて再び復学を繰り返してしている学生が少なくありません。日本では学則が厳しいのでこんな事は難しいですが、先輩だった人がいつのまにか後輩に変わる事も珍しくありません。

まとめ
私の友人でその指導方針が厳しく、学生から恐れられていた教授が停年になり、惜しまれつつ大学を離れました。その後、しばらく経って教え子が先生の77歳の喜寿のお祝いの会を開きました。久しぶりに会った先生は、すっかり丸くなっていました。多くの学生に「先生丸くなりましたね」といわれ,先生は「年齢をとったからね」とにこにこ顔でした。しかしここでちょっと待った。「丸くなる」とは一般に角がとれて温和になる事を意味しますが、実は性格はそんなに変わるものではありません。まして高齢になるとかえって頑固になります。「丸くなった」様に見えるのは、単に気力、体力がなくなってエネルギーが枯渇したからです。したがって、そんなに感心する程の事ではありません。「丸くなる」ことは単なる老化現象です。

こんな事もあります。定年になって「やれやれこれで毎日が日曜日だ」と喜んでも、一年も経つと昔一緒に苦労を共にした同僚が懐かしくなるのは誰でも同じです。その証拠に、多くの職場には定年退職者の同窓会があり、昔の職場の同僚と酒を飲み交わす機会があります。そこでは年齢に関係なくお互いに至福のときを過ごす事が出来るのです。

定年後にどのような道を選ぶかは個人が決める事ですが、定年後の人生では個人にとって精神的、肉体的、金銭的に厳しい面があります。しかし、高齢者はそれまでの貴重な経験をもっています。これからは、年齢に関係なく若い人たちと高齢者が協調しながら上手く生きて行くことが求められます。 (2016年11月1日記)


38. 笑いがもたらす健康効果

今年も年の瀬を迎える季節になりました。年の瀬の“瀬”には、川の浅い箇所、流れの速い場所と言う意味があります。船で通る際に急流や激流が行く手を阻む困難な場所を指しているのですが、この様子を「支払いがたまって困っている状態」や「支払いをすると食事や暖をすることができなくなる」ことになぞらえているのが、語源と言われています。

本題に入る前に少しばかり身体の話をしたいと思います。身体を構成している正常細胞の数は60兆個と言われています。しかし、この数の算出根拠は明らかでありません。おそらく成人一人の身体の体積を、細胞一個の体積で割ったり、細胞一個の重量と一人の体重の割合から、細胞数を算定していたのだろうと思われます。

最近その細胞数が誤りであるとの論文が出ました。2013年に細胞生物学者の永田和宏氏(京都大学名誉教授)が各臓器の体積や、臓器ごとに算定した細胞数を合計して、人間は37兆個余りの細胞からなると結論しました。どうやらこの数字の方が真実だと思います。

一方、昔から、がん研究からの情報として、身体の正常細胞の中で、1日3000~5000個は若くて健康な人でもがん細胞に変換しているといわれています。しかしがんにならないのはどうしてでしょうか。それはナチュラルキラー(NK)細胞ががん細胞を破壊してくれるからです。人間の体内のNK(エヌケイ)細胞の働きが活発だとがんや感染症にかかりにくくなります。

NK細胞は加齢に伴って増加しますが、その免疫力は逆に低下します。その年齢別変化は15歳から20歳でピークとなり、その後ゆるやかに減少、50歳から60歳くらいでピーク時の3分の2から2分の1程度まで減少し、80歳では4分の1程度にまで下がっています。したがって50代頃からがんの患者が増え始めます。

免疫細胞の多くは腸で作られているので、免疫力を高めるためには腸内を善玉菌優性の状態にする必要があります。善玉菌を増やすために、R-1ヨーグルトの様な乳酸菌を摂取することが推奨されています。さらに、NK細胞の働きを活性化するためには、喫煙をひかえる、飲酒は適度にする、よい睡眠をとる、など日常生活で心がけることが多いですが、その中に「笑い」も含まれます。 前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。

”笑い”には免疫力を活性化することが科学的に証明されています。笑うと免疫を調節している脳の間脳に興奮が伝わり、そこから神経に作用する特殊な物質(神経ペプチド)が活発に生産されます。その神経ペプチドは、血液やリンパ液を通じて体中に流れ出し、NK細胞の表面に付着し、NK細胞を活性化します。これらの神経ペプチドは、人がリラックスしたり、幸福を感じていたりするときに放出されるものです。

例えば、漫才、落語を見て笑った直後、血液検査を行ったところ、18人中14人がリンパ球のNK細胞の活性値が上昇しました。つまり声を出して笑うことにより、がんやウイルスに対する抵抗力が高まり、同時に免疫力が増加することが知られています。小学生は1日に平均300回笑うが、70代では1日に2回程度しか笑わないとの報告もあります。

逆に、悲しみやストレス、上司に叱られるなどのマイナスの情報を受け取ると、笑えなくなりNK細胞の働きが鈍くなるため免疫力もダウンしてしまいます。その結果、病気にかかり易くなり、場合によってはがんの引きがねにもなります。また、加齢によりNK細胞の働きが弱まりますので、高齢者では免疫力が減少しがんや他の病気にかかり易くなります。 今回は本シリーズの第4話「医者と患者の掛け合い」、第14話 「笑う門には福来る」に引き続き手元のジョーク集からいくつかの笑い話をとりあげました。暮れも迫って忙しい中で、クスッとひと笑いしてくつろいで下さい。

■ ある学者がムカデを使った実験をしていた。
最初に彼はムカデの足を3分の1切った。
「歩け!」
何とか歩いた。
次にムカデの足を半分に切った。
「歩け!」
ムカデは動かない。
学者は実験ノートに書いた。
「ムカデは足を半分に切ると、耳が聞こえなくなる」

■ 昔々、ある夫婦のもとに信じられないほどの不細工な子供が産まれた。
周りからの目に耐えられなくなった妻は子供の殺害を計画する。妻は子供が夜になると無意識のうちに自分の乳房にしゃぶりつくことを知っていた。妻はその習性を利用し子供を毒殺しようと考えた。
その夜、妻は自分の乳房に毒を塗って床についた。そして朝が空け妻が目を覚ますと、無邪気に笑う子供の横で、夫が息絶えていた。

■ 嵐の空を飛んでいた飛行機が落雷を受けて飛行不能となり、なんとか海の上に着水することが出来た。
そして機長の指示がアナウンスされた。
「誠に申し訳ありませんが当機には救命ゴムボートが搭載されておりません。
泳げるお客様は機内左側に、泳げないお客様は機内右側にお集まり下さい。 左側に残られたお客様は、直ちに海に飛び込んで向こうの小さな島まで泳いで下さい。右側に移られたお客様、「本日は当機にご搭乗いただき、まことにありがとうございました。」

■飛行機に乗ってしばらくすると客室乗務員が「お客様の中でお医者様はいらっしゃいませんか」と聞いてきた。
偶然乗り合わせた医者が席を立ち、事態を解決することになった。
またしばらくすると客室乗務員がやってきて言った。
「お客様の中で牧師さんはいらっしゃいませんか?」

■父親の職業を引き継いだライオン調教師に、サーカスのファンが訊ねた。
「ライオンの口の中へ頭を突っ込んだことがありますか?」
「一度だけありますよ。父親を探しに」

■監督「さあ、ここから崖を飛び降りるんだ」
  俳優「は、はい。でも、もしケガをしたり死んでしまったりしたら、これから先どうするんですか?」
  監督「大丈夫。これが映画のラストシーンだから」

■「船旅をしていたある早熟な少女の日記」
 (月曜日)船長に食事に誘われる
 (火曜日)船長と一日を過ごす
 (水曜日)船長に下品な申し出をされる
 (木曜日)船長に、もし申し出を断れば船を沈めると脅される
 (金曜日)500人の乗客の命を救う

■最高の生活――アメリカ人と同じ給料をもらい、イギリスの家にすみ、日本人の妻を持ち、中国人のコックを雇う。
  最悪の生活――中国人と同じ給料をもらい、日本の家にすみ、アメリカ人の妻を持ち、イギリス人のコックを雇う。

■訪問客「こちらでジョン・スミスという男が働いているのですが、ちょっと面会させて頂けませんか?私は彼の祖母ですが」
受付「お気の毒ですが、今日は欠勤です。あなたのお葬式に出ています」

■教授はレントゲン写真を見せながら、学生たちに説明した。
「この患者は、左の腓骨と脛骨が著しく湾曲している。そのため足をひきずっているのだ。スティーブ、こういう場合、君ならどうするか言ってみなさい」
スティーブは一生懸命考えて答えを出した。
「えっと、僕もやっぱり足をひきずると思います」

■アル中の男が医者に診てもらいにきた。男の手は絶えずブルブル震えている。 医者が尋ねた。
「こりゃひどい。あなたはたくさん飲むんでしょうな」
「それほどでもありませんよ。ほとんどこぼしてしまうもので……」

■ もうすぐ手術をうけることになっている男が必死になって車椅子でホールにやってきた。
看護師長が彼を止め、尋ねた。「どうしたんですか?」
「今、看護師さんが言ったんです。『簡単な手術だから心配ないですよ。きっとうまくいきます』って」
「あなたを安心させようとしたんでしょ。何をそんなに怖がってるの」
「看護師さんは私に言ったんじゃないんです。主治医にそう言ったんです」

■ある婦人が夫の精神状態について心療内科でカウンセリングを受けていた。
婦人「先生、主人はひどいノイローゼです」 ひとしきり日常の様子、ことに夫の精神的異常についてまくしたてた。
医者「そのようですね」
婦人「しばらく療養させたいのですが、海と山とどちらがよろしいでしょうか?」
医者「そうですねぇ」と少し考えた後答えた。
「ご主人が山に行かれて、奥さんが海に行かれると一番よろしいかと」

■ひとりの男が病院に行き、医者にこう告げた。
患者「先生、数日前から全身のどこを触ってもひどく痛むんですよ」
医者「具体的にはどういう事です?」
患者「肩を触ると痛いし、ひざを触っても激痛が・・・おでこを触っても本当に痛いんです」
医者「わかりました、診て見ましょう」
医者は男の体を一通り触診し答えた。
「症状がわかりました。あなたは指を骨折されてます」

■男が体の不調を訴えて診察を受けた。
医者「血圧が高いですよ」
患者「家系のせいだと思います」
医者「母方かね?それとも父方?」
患者「いいえ、家内のほうなんですよ」
医者「どうして奥さんの家系のせいで、あなたが高血圧になるんです?」
患者「先生、会ってみればおわかりになりますよ」

■ 医者が難しい顔をして、向かいに座っている患者の検査結果のページをめくっている。
医者「おいくつですか?」
患者「もうすぐ40になります」
医者「ならんでしょうな」

■ ルーシーは不眠症のためドクターを訪ねた。
「先生、最近夜どうしても眠れないんです。何とかなりませんか?」
ドクターは夫人を診察してこう言った。
「軽い不眠症ですな。薬を処方します」
あと寝る前には数を数えるといいですよ。羊が一匹、羊が二匹、とね」
「わかりました。やってみます」ルーシーは家路に着いた。
次の診療日。
「どうですか。その後の具合は?」
「ええ、お蔭様でよく寝れるようになりました」
「それは良かった」
「ただ問題があるんです。実は私が数を数えてると主人がいつも決まって急に夢から覚めて飛び起きるんで困ってるんです」
「えっとご主人の職業は?」
「プロボクサーです」

■保険を申し込む男が、用紙に記入するのに困っていた。
セールスマンが問題は何かと尋ねると、父親の死因の欄に書けないのだと答えた。
セールスマンが理由を尋ねた。しばらく困惑した様子でいた男は、父親は絞首刑になったのだと説明した。
セールスマンはちょっと考えた。
「こう書いてください。『父が公式の行事に出ていたとき、突然足場が崩れた』と。

(以上ジョーク集より)

今回は今年最後なので少し長文になりましたことをお詫びします。

今年も「メディカルトーク」をご笑覧下さいまして有り難うございました。少し早いですが佳い新年をお迎え下さい。そして来年2017年もよろしくお願い致します。            (2016年12月1日)


39. 薬は本当に安全ですか?

最近、書店には薬に関する書物が溢れています。「のんではいけない薬」、「暴走するくすり?」、「危ない薬の見分け方」、「抗がん剤は効かない」、「断薬のススメ」などなど。

「薬は病気を治すために使われるもの」と疑わなかった多くの患者にとって、これらの書物は大きな混乱を与えています。しかしご安心下さい。病院で処方される薬は、医師や調剤薬局の薬剤師の指示通り適正に使用する限り大きな問題はありません。もし不具合がでたりご質問があったらご遠慮なく担当医か薬を受け取った調剤薬局の薬剤師に相談して下さい。

1.一般の処方薬は安全です
 どんな薬でも程度の差はあるものの副作用を伴います。なぜか。薬はその主作用部位だけでなく、血液を介して他の臓器にも作用します。これが副作用の原因です。しかし、病院で処方される処方薬は効果(有効性)が大きく毒性(副作用)が小さいものが圧倒的に多いのです。

例1
風邪薬を飲んで眠くなる、消化剤を飲むと喉が乾くなどは、飲んでから数時間で正常になります。
例2
抗生物質は服用すると1−2日後から下痢になることが多い。これは腸内細菌の中で善玉菌が抗生物質により死滅するからです。しかし、薬を止めると2−3日で回復します。

処方薬の中で深刻な副作用は、「睡眠薬の依存性」と「抗がん薬の副作用」です。中でも抗がん薬の場合は、一般薬と違って重篤な副作用を伴うものが多いので、治療効果が期待されると同時に副作用も覚悟しなければなりません。

2.睡眠薬の開発と副作用
 昔の睡眠薬は長時間型で強すぎて、使い方を間違うと命にかかわることがありますので現在は殆ど用いられていません。1960年代以降になり、不眠を解消する目的で短時間型の睡眠薬である「睡眠導入剤」が開発されました。不安症状のときにも使われるので「抗不安薬」とも言います。最近の調査では日本人の5人に1人が不眠で悩んでおり、約20人に1人が睡眠導入剤を服用していると報告されています。

病院でよく処方される睡眠導入剤としては、マイスリー、ハルシオン、アモバン、デパス、レンドルミンなどがあります。この中でデパスとレンドルミンは「短時間型」睡眠導入剤で、服用してから15〜25分程度で睡眠に入り、6〜8時間程度睡眠作用が持続します。また、ハルシオン、マイスリー、アモバンなどは「超短時間型」で、服用してから5〜10分程度で効果が現れ、持続時間は2〜4時間です。

睡眠導入剤の中でデパスとハルシオンは他の導入剤に比べて比較的強力で依存に陥り易い薬です。また、筋弛緩(きんしかん)作用があるので、翌朝起き上がって歩いた時に、手足の筋肉に力が入らずふらふらして転倒することがあるので注意が必要です。

睡眠薬の薬物依存性は深刻だ
 睡眠導入剤の副作用の中で最も深刻なのは、長期に使用したときに見られる「薬物依存性」です。睡眠薬をやめるのは簡単ではありません。実際、デパスやハルシオンなどを処方された患者の30パーセントは薬がないと眠ることが出来ないために1年以上薬を続け、患者の10パーセントはさらに長く3年以上続けているという調査報告があります。

依存性が現れる期間は、薬の種類や個人によって差がありますが、一つの目安として「6ヶ月」と言われています。しかし、6ヶ月以内なら絶対大丈夫とは言い切れません。できるだけ短い期間にやめる方が無難です。

デパスとアモバンが「向精神薬」に指定
 睡眠導入剤の頻用に伴って。時には事故や事件などにまで発展するケースが増えました。そこで、厚生労働省では2016年9月14日に今まで普通薬に分類されていた強力な睡眠導入剤のデパス(一般名エチゾラム)とアモバン(一般名ゾピクロン)を新たに「向精神薬」に指定しました。向精神薬とは抗うつ剤、抗不安薬、抗精神病などの総称で、濫用のおそれがある薬です。

これにより、デパスとアモバンは「麻薬及び向精神薬取締法」により規制されることになりました。医療機関ではこれまで通り処方は出来ますが、2016年11月1日から投与期間の上限が30日になりました。また、個人輸入などが禁じられ、違反者には最高で7年以下の懲役又は200万円以下の罰金が科せられます。

● さらに一言
大麻を栽培、使用、譲渡することは法律違反です(「大麻取締法」)。
覚せい剤を病院などの医療機関で施用する場合は、国の「覚せい剤施用期間」 の指定が必要です。また、覚せい剤を譲り渡し、又は譲り受ける場合には国の許可が必要です(「覚せい剤取締法」)。
麻薬の栽培、譲渡は法律違反です。麻薬の中でモルヒネはがん患者の緩和医療に痛み止めとして少量投与します。しかし、それ以外の医療目的に不正使用することは禁じられています(「麻薬及び向精神薬取締法」)。
向精神薬は医療目的に使用されていますが、その投与量、期間などは法律により規制されています(「麻薬及び向精神薬取締法」)。

3.がん細胞の増殖、転移
 がん細胞は何らかの原因で正常細胞が変換したものです。正常細胞とがん細胞の最も大きな違いは、正常細胞は細胞分裂することで増えますが、同時に同じ数だけ古い細胞は死にます。したがって、各臓器毎にほぼ一定の細胞数を保っています。一方、がん細胞は、体からの指令を無視して細胞自身が勝手に増え続けます。

がん細胞は血液やリンパ液の流れに乗って他の臓器に運ばれてある臓器に留まり、その臓器の中で血管を新しく形成して,大量の酸素や栄養を獲得し急速に増えます。これががんの転移です。その場所が肺であれば転移性肺がんとなり、肝臓であれば肝臓がんとなります。

抗がん剤の毒性
 従来の抗がん剤はがん細胞の様なその増え方が異常に速い細胞を狙い撃ちします。この様な増殖速度の速い細胞は正常細胞の中でもあります。それは骨髄、腸管、毛根などです。抗がん剤はがん細胞とこれらの正常細胞を識別出来ませんので間違ってそこにも作用します。その結果、骨髄の造血機能が低下すると貧血になります。また、毛根細胞が抗がん剤に侵されると脱毛になります。さらに、腸管上皮が脱落したら、下痢が起こります。これらの副作用は抗がん剤がもつ共通の副作用です。そこで、それらの副作用を防ぐ目的で、最近では造血薬、吐き気止め、下痢止めなどの薬を併用することが多くなりました。

抗がん剤の最も深刻な副作用は免疫力の低下です。特に高齢者の場合は、一度免疫力が低下すると回復が困難です。抗がん剤治療の結果、MRI, CTなどの画像診断でがん細胞が消えても、体力の消耗、免疫力の低下による肺炎の合併症で亡くなる方も少なくありません。

「分子標的薬」新型抗がん剤の誕生
 抗がん剤の副作用を軽減する目的で、最近、正常細胞には作用せずがん細胞のみを標的とする抗がん剤が開発されました。それが「分子標的薬」です。分子標的薬は増殖の速い細胞を狙うのではなく、がん細胞の中に存在する増殖や転移に関係した特定の分子(遺伝子やたんぱく質)を狙い撃ちするのです。したがって、正常細胞へのダメージは従来の抗がん剤に比べたら少なくなっています。

しかし、これらの薬にも欠点があります。それは、効く患者と効かない患者がいることです。分子標的薬が標的とする遺伝子やたんぱく質がない患者では効果は期待出来ません。したがって、分子標的治療薬を使用する場合は、予め患者の血液やがん組織を用いて分子標的薬の標的遺伝子があるかどうかを検査し、それが検出された患者だけに投与します。

分子標的薬は現在20種類以上ががん治療に使われております。その主なものは下記の通りです(カッコ内は商品名と効能)。
(例)ゲフィチニブ(イレッサ、非小細胞肺がん)、エルロチニブ(タルセバ、非小細胞肺がん)、セツキシマブ(アービタックス、大腸がん)、パニツムマブ(ベクティビックス、大腸がん)トラスツズマブ(ハーセプチン、乳がん)イマチニブ(グリベック、慢性骨髄性白血病、消化管間質腫瘍、急性リンパ性白血病)ベバシズマブ(アバスチン、大腸がん、非小細胞肺がん)リツキシマブ(リツキサン、B細胞リンパ腫)

分子標的薬は従来の抗がん剤に比べて副作用は少ないですが、一律に安全性が高いというわけではありません。誤った使い方をすると間質性肺炎の様な重篤な副作用が報告されていますので、専門医による慎重な使い方が必要です。また、患者にとっては医療費が高額となるといった問題があります。
分子標的薬に関しては、本シリーズ第22話もご参照下さい。

抗がん剤の薬剤耐性
 抗がん剤の問題点は薬剤耐性です。これは分子標的薬も同じです。同じ抗がん剤を1年間程使い続けると、がん細胞は薬の作用から逃れるためにその遺伝子を変異するため薬が効かなくなります。それが「薬剤耐性」です。これは抗ウイルス剤の場合と同じです。昨年流行したときの抗インフルエンザウイルス剤が今年は効かないことが多い。何故か。ウイルスの形態が変異して薬が有効に働かなくなるからです。「薬剤耐性」が出来たがん患者は新しい抗がん剤に切り替えて治療を続けることになります。

今回のまとめ
冒頭で述べました様に、病院で処方される多くの薬は決められた投与量を決められた回数だけ服用する限り深刻な副作用はみられません。しかし、特殊な例として睡眠導入剤の依存性と抗がん剤の耐性、副作用があります。抗がん剤治療中に副作用が強くて我慢出来ないときには躊躇せずに担当医に相談して下さい。きっとそれに代わる治療法がある筈です。

[付録]
 最近の治療は「根拠に基づく医療evidence-based medicine, EBM」が主流になっています。これに関して、根拠のある最新の情報がインターネット(QLife)上で解説しています。下記のURLをご参照下さい。なお“QLife”は”Quality of Life(生活の質)”を意味しています。

「治療法・薬の科学的根拠を比べる」(2016年改訂版)
  治療法の検索
  治療薬の検索

 ここでは治療法や治療薬を証拠に基づいて5段階方式で評価しております。内容は多少専門的になりますが、ご関心のある方は是非ご一読をお勧めします。               (2017年1月1日記)


40. カレーライスは究極の薬膳料理

私が子供の頃、カレーライスは「ライスカレー」と言われて珍しい食べ物でした。明治10年生れの祖父が、母が作ったカレーライスを初めて食した時、「これは西洋のとろろだ、中々うまい」と言ったことを今でもよく憶えています。戦時中だったので、香辛料なども手に入れるのが難しいときに、母がどこでこのようなハイカラな食べ物を知ったか知りませんが、家族の間では大好評でした。昭和14、5年の懐かしい想い出です。

なぜ日本人はカレーが好きか
 今やラーメンと並んで「日本人の国民食」になったカレーライスは、国内では新宿中村屋の「インドカリー」が元祖といわれています。その中村屋のホームページには、インドカリーの歴史についてこんなことが書かれています(要点のみ引用)。

「中村屋が純印度式カリーを発売したのは、昭和2年(1927)です。インドカリーのレシピを中村屋に伝えたのは、ラス・ビハリ・ボースというインドの独立運動の志士でした。こうして昭和2年に開設された喫茶部のメニューに、「純印度式カリー」という商品名が並ぶことになりました。当時一般のカレーが10銭から12銭程度のところ、中村屋が発売した80銭の純印度式カリーは食べた人に衝撃を与え飛ぶように売れて、中村屋の不動の名物料理になりました。」

カレーについて、誰もが明治維新以降にインドから新しく入ってきたことは知っています。それがどうして、日本では国民食といえるほど多くの人々が好んで食べるようになったのか。今や日本人にとってはラーメンとカレーライスは欠かせない食べ物です。国民食のカレーライスは、インド料理を元にイギリスで生まれ日本で発展した料理です。

カレーは薬膳料理だ
 市販の胃薬品にはカレーに使われているウコン、ケイヒ、陳皮(チンピ、みかんの皮)などの漢方薬が含まれています。これらのスパイスの中には発汗、健胃、抗酸化作用を示すものがあります。また、発汗作用で新陳代謝を高め、食欲を増進させ、胃腸の働きを高め、疲労を回復するなどの効能を持っています。スパイスの薬効が科学的に解明される前から、昔の人々はスパイスの効果を実感しそれを自然と求めていました。最近「薬膳カレー」という名前で健康食として出す店が増えていますが、カレーは元々、様々な薬効のあるスパイスが巧みに調合された医食同源の薬膳料理です。

カレーのスパイスは漢方薬
 カレーパウダーには10種類以上のスパイスが使われますが、基本となる代表的なスパイスは、黄色の色を出すターメリック(ウコン)、辛みを出すチリ(唐辛子)やペッパー(黒胡椒)、香りを出すコリアンダーやクミンです。 ここでは代表的なスパイスを紹介します。

1.着色性スパイス
 ●ウコン(英名ターメリック)
ターメリックは「ウコン」という漢方薬の根茎を乾燥したもので、その中には抗酸化作用をもつポリフェノールが含まれています。カレー粉の主原料で黄色の色付けに使われ、カレーには欠かせないものです。その主な成分であるクルクミンは漢方薬として胆汁の分泌を促して肝機能障害を予防するので、肝臓によい、二日酔いに効くといわれています。しかし、C型肝炎や脂肪肝などの肝機能障害の方にはサプリメントなどのウコンの大量摂取は危険です。その理由は、ウコンには牛レバーと同じくらいの量の鉄分が含まれており、C型肝炎や非アルコール性脂肪性肝炎などを患っている方では、この鉄分が肝臓に過剰に蓄積された場合、重篤な副作用が報告されています。したがって、これらの肝臓の病気を持っている人々は大量のウコンは慎むべきです。日常カレーに含まれる程度の量は全く問題ありません。
2.辛み性スパイス
 ●チリ(唐辛子)
唐辛子を含む食べ物を食べるとどっと汗が出ます。これは唐辛子の成分であるカプサイシンの働きで、脂肪を燃やす作用がありダイエットにも効果があるといわれています。カプサイシンはカレーの辛さを決める重要なスパイスで、唾液や胃液の分泌を促進して消化を高め、食欲増進、抗酸化作用などの効能も期待できます。また、手足の末梢血管を拡張して血行をよくするため、唐辛子は神経痛などの温湿布にも利用され、靴下の中に入れてしもやけや凍傷の予防にも使われています。辛みが強いので大量に摂取すると胃や腸の粘膜が炎症を起こすことがあるので要注意です。
 ●ジンジャー(生姜、ショウガ)
日常の生活で頻繁に使われており、清涼感のある香りとさわやかな辛みをもっています。他のスパイスと一緒にカレーの風味付けに利用され、肉や魚の臭い消しや味つけにも使われています。ショウガの根は生姜(しょうきょう)と呼ばれ、中国では紀元前500年頃から漢方薬として利用されます。風邪の初期に汗が出て寒気を感じたときに使われています。また、胃腸が冷えて働きが低下したときに有効です。昔から風邪の予防にショウガ湯が飲まれていました。
 ●ペッパー(胡椒、コショウ)
胡椒は収穫や加工の仕方で色や風味が異なってきます。一般に知られる胡椒の種類は、黒胡椒(ブラック・ペッパー)と白胡椒(ホワイト・ペッパー)がよく知られていますが、そのほかに、グリーン・ペッパー、ピンク・ペッパー、長胡椒(ロング・ペッパー)などがあります。熟していない緑色の実を果皮ごと天日に干すと「黒胡椒」となり、塩漬けしたり、あるいは乾燥機を使って短期間で乾燥させると、果皮が緑色のままのグリーン・ペッパーになります。赤く熟した実を水に浸して取り除き、核だけを乾燥させたのがいわゆる「白胡椒」と言われるもので、この赤い実を塩漬けや乾燥機などの方法で乾燥させると、ピンク色の「ピンク・ペッパー」となります。 胡椒はカレーの主要なスパイスで、健胃、腸内ガスの排出、食欲増進などの効果があります。漢方では消化不良、嘔吐、下痢、腹痛などのときに使用されます。
3.芳香性スパイス
 ●コリアンダー
カレーのスパイスに使われる「コリアンダー」の葉とタイ料理に欠かせない香草の「パクチー」は、生の状態で見分けることが非常に難しい。なぜなら、「コリアンダー」は英語、「パクチー」はタイ語というだけで、全く同じ植物だからです。中華料理で使う「香菜(シャンツァイ)(中国パセリ)」も同じものです。
スパイスとして昔から利用されてきたのはパクチーの種子で、コリアンダーはパクチーとは違った甘くまろやかで柑橘類の香りとかすかな辛みをもっています。消化を助けるため胃薬としても利用され、食欲増進作用もあります。
 ●クミン
古代ギリシャ・ローマ時代から栽培されていたセリ科の一年草で、原産は地中海沿岸地方。カレーの主要なスパイスです。辛み成分はクミナール。クミンは漢方薬として消化促進、下痢や腹痛の治療薬、胃腸内にガス溜まるのを予防する作用があります。
 ●シナモン
上品な香りと甘みを持つクスノキ科の常緑樹。芳香の成分はケイヒアルデヒドやオイゲノールという化学物質で、カレーにもよく使われるスパイスです。漢方では「桂皮(けいひ)」「肉桂(にっき)」と呼ばれ、発汗、解熱、鎮痛、健胃、抗菌効果があるとされています。むかし駄菓子屋で売っていた「にっき(にっけ)」の棒をしゃぶった記憶があります。
 ●ガーリック(にんにく)
刺激的な香りを持つユリ科の多年草で、古くから世界中で使用され、カレーでは全体の風味付けとして、また葉や茎は香味野菜として利用されます。疲労回復、強壮、健胃、整腸などの効能があります。
 ●チンピ(陳皮)
ミカンやダイダイなどのかんきつ類の皮を乾燥させたスパイスで、日本ではカレー粉の原料として、また七味唐辛子にも使われます。漢方薬として健胃、吐き気止め、せき止め、痰を切る、などの効能があります。
 ●クローブ(ちょうじ)
成分の「オイゲノール」には消毒、鎮痛、抗菌、鎮静、抗酸化、などの効能があります。昔、歯痛の時に強い匂いのある液体が痛み止めに使われていましたが、これがオイゲノールの匂いです。

カレーは中年の若返りに効く
 カレーに使われているウコンやカルガモン、コリアンダーやクミン、シナモン…等々のスパイスは、もともと漢方薬として使われていたものが多く、肝臓・胃腸の働きを良くしたり、せき止め、疲労回復、殺菌作用、下痢止め、風邪・肥満・二日酔い・冷え性・肩凝り予防などさまざまな健康効果をもたらします。つまり、カレーを食べることで中年の機能が改善し若返り効果にもなり、その結果、加齢臭予防にもなるといわれています。

最後に一言。
 「ライスカレー」と「カレーライス」はなにが違うのでしょうか。時代的にはライスカレーが先ですが、これには諸説があります。幕末に日本にやってきたイギリス人からカレーを教わった日本人が、必ずご飯と一緒に食べることから「ライスカレー」になったとの話があります。 薬膳料理は「医食同源」にもつながります。つまり、病気を治すための薬と食べ物とは、本来根源を同じくするものであるということです。毎日の食事に注意することが病気を予防する最善の策である、また、日ごろの食生活も医療に通じるということになります。                     (2017年2月1日記)


41. ストレスと認知症

今回は本シリーズ第8話「ど忘れと認知症は別もの」の続編として認知症とストレスの関係を考えてみます。

高齢ドライバーの認知症対策を強化した改正道路交通法が2017年3月12日に施行されます。施行の主な理由は高齢者や認知症患者による交通事故の急増によるものです。

それに関連して、国では高齢者の運転免許の自主返納を勧めています。私も2017年2月3日に運転免許を自主返納しました。約50年間お世話になった運転免許証を手放す事は複雑な心境でした。しかし、一旦事故を起こしたら短い余命が果てるまでその罪を背負って生きて行かなければなりません。今回は多くの不便を覚悟の上で決断しました。

決断の日、幕張にある千葉県運転免許センターの窓口で自主返納をしたい旨を伝えると、係の女性が書類を取り出し、それに必要事項を記入しました。一連の手続きが終わると、手元の時計を見せられて、「ただいまの時刻をもってこの運転免許証は無効となりますので今後運転出来ません。それでよろしいですか」と確認されました。「よろしいです」と言うと署名を求められ、さらに、無効時刻の欄に「平成29年2月3日1時15分」と記しました。

型通りの手続きが済むと、「運転経歴証明書」を申請し取得することができました。「運転経歴証明書」は、運転免許を返納した日からさかのぼって5年間の運転に関する経歴を証明するもので、これまで安全運転に努めてきたことを証明するものです。身分証明書としても有効です。外見は上半身の写真が貼られており免許証と酷似していますが、大きな違いは「自動車等の運転は出来ません」と朱書されている事です。

閑話休題
 ところで、個人の生活環境の中で生じるストレスが認知症や若年生アルツハイマーの原因になる事は、これまで多くの事例をみてほぼ間違いないところです。

毎日の生活の中で、ストレスは大小の差はあるものも誰でも切り離せないものです。私たちは様々な刺激を絶えず受けています。例えば、食事のとき、テレビを見るとき、家族や他人と会話をする時、など何気ない生活の中で刺激を受けています。大部分の刺激は気にする事もなく自然と処理されますが、一部の刺激は心理的ストレスとして残ってしまいます。そして、徐々に強いストレスが溜まることで認知症や若年性アルツハイマー病の原因になる可能性があります。

ストレスの影響はすぐに表れるとは限りません。40−50代の働き盛りに強いストレスに曝されると、体力が衰えた70−80歳になって認知症の引きがねになることが少なくありません。同じ環境でも個人によりストレスの受け止め方が違います。ストレスに過敏な人では認知症のリスクが1.57倍に高まるとの調査結果があります。ストレスは神経細胞にダメージを与え認知症や若年性アルツハイマー病の病状を加速させてしまうのです。

ストレス物質と認知症および若年性認知症との関係
 身体にストレスが加わると、コルチゾールというストレス物質が副腎皮質から放出されます。副腎は左右2個の腎臓の上に付いており一個が約5グラムです。解剖学的に皮質と髄質の二層から構成されており、皮質部分は5グラムの約75パーセントを占めています。過剰なストレスによって多量のコルチゾールが分泌されてその反応はとても敏感です。

コルチゾールが脳に作用すると、神経細胞にダメージを与え、記憶が衰える原因になります。さらに、コルチゾールは、アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドベータというたんぱく質の沈着を加速し、認知機能を低下させることも分かっています。

2014年に発表されたアメリカ分子精神医学専門誌によると、慢性的なストレスによりコルチゾールが増加すると、新しい記憶を蓄える脳の中の海馬(かいば)という部分が萎縮します。海馬の萎縮は脳の画像診断において、認知症患者にみられる典型的な画像の一つです。

認知症の症状が見られるのは高齢者だけではありません。最近では若年性認知症の患者が増えています。64歳以下の人が認知症と診断されると、若年性認知症と呼ばれています。この症状はうつ病や更年期障害などと間違われることもあり、診断までに時間がかかってしまうケースが多く見られます。職場で頻繁に強いストレスに曝されると若年性認知症の引きがねになります。働き盛りの方々が若年性認知症で引き起こすトラブルはまさしく、海馬の萎縮によるものと考えられます。

うつ病症状になると認知症のリスクが倍増
 高齢者が生活環境の変化でうつ状態になると認知症のリスクが高めることは多くの研究によりよく知られています。例えばこんな研究結果が報告されています。

 アルツハイマー型認知症よりも脳梗塞、脳出血患者にみられる脳血管性認知症の方が、発症初期にうつ症状が高頻度にみられる事と合致します。

この様に、うつと認知症や若年性アルツハイマー病には深い関係にあります。したがって、うつ病を早期発見し、すぐに治療を始めることが、認知症や若年性アルツハイマー病の予防や治療に繋がる事は間違いありません。うつ病を早期に発見するためには、その症状を知っておくことが大切です。次のような悲観的な訴えが多いとうつ病が疑われます。

また、高齢者の場合は、配偶者が死亡する事によるショックも認知症への誘因になります。職場での仕事が思い通りにいかなかった場合は若年性アルツハイマー病のキッカケとなります。永年楽しんだ趣味を止めることもアルツハイマー型認知症を発症する引きがねになることがあります。

ストレスの感受性には個人差が大きい
 慢性的なストレスは脳内の海馬を収縮するので、記憶力を低下させます。その結果、認知症や若年性アルツハイマー病の発症や進行を早める原因となります。それでは、一体どうしたらストレスを感じにくくなるのでしょうか。

・認知症になりやすい性格
穏やかでのんびりした性格の人や、社交的で活発な社会生活を送っている人は、認知症の発症率が低いことが研究からわかっています。一方、自己中心的、わがまま、几帳面、非社交的などの性格は認知症を発症するリスクを上げるというデータもあります。

日常生活で強いストレスを感じている人は、ストレス物質のコルチゾールが増え、記憶障害だけでなく、免疫機能が低下して病気にかかりやすくなります。それを防ぐには、活動的な生活を送る、さまざまな娯楽、趣味を楽しむ、社会的な関わりを充実させるなどのライフスタイルを送ることで、認知症が予防できるといわれています。

・嫉妬心はアルツハイマー病のリスクを上昇させる
 ある研究チームが38年間にわたり個人別に追跡調査した結果によれば、「中年期に不安・嫉妬心・感情の起伏が激しい人は、そうではない人に比べて、老年期になってアルツハイマー病発症のリスクが2倍も高い」と報告されています。

適度なストレスは必要悪だ
 職場や大学生活、家庭生活などの中で過度なストレスはいろいろな病気を誘発する原因になりますが、適度なストレスであれば刺激になります。例えば、大学生の場合、期限が迫った論文の作成や、期末試験の前の「適度なストレス」はモチベーションを高めます。スポーツ選手の優勝に向けた努力は本人が無意識でもストレスになっています。しかし、それは選手のやる気を高めるので悪い影響は残しません。

高齢になったらあきらめもつくかもしれませんが、50代で老化現象が進行したらショックです。脳の老化は思わぬところからやってきます。仕事に行って終わればそのまま帰宅。ご飯を食べてダラダラして眠る。そして休日も特に出かけることなく家の中でテレビに見入る。こんな生活を送っている人は、適度のストレスもないので、脳の対応が鈍くなります。家人に文句をいわれつつストレスと感じるくらいの生活が脳を活性化します。

まとめ
 高齢になり友人と遊ぶことが少なくなったという人は要注意です。停年を過ぎると一人だけの時間が増えます。結果的に休日は引きこもったり出かけることが少なくなります。外出して友人と過ごす時間は刺激があり、生活の中で重要なことです。それがなくなってしまうと脳は刺激を感じることが少なくなります。街には刺激が溢れています。外出することで脳は刺激を感じるので休日は出かけてみてはどうでしょうか。  (2017年3月1日記)


42. 笑いは記憶力を高める

今回は本シリーズ4、14、38話に引き続き「お笑い第4弾」をお送りします。

笑うと脳の血流量が増加し脳の血管がつまることによって起こる脳硬塞の予防や回復に役立ちます。このことは認知症の予防にも役立つことを示しています。さらに、血流量が増えることにより脳の働きが活発となり、それにより集中力も増し、記憶力を司る側頭葉の働きや記憶を蓄える「海馬(かいば)」を大きくして脳に入る新しい情報を覚えやすくします。笑いは判断力や思考力も高めます。


病院で医者が患者に言った。
「あなたは世にもまれな伝染病にかかっています。隔離室を用意しますので今からクラッカーしか食べてはいけません」
「クラッカー?クラッカーを食べれば病気が治るのですか?」
「いいえ。ドアの隙間からはクラッカーしか入らないのです」

ある男が心臓移植手術で一命を取り留めた。
その男の病室に一人の医師が訪れて言った。
医者「君が助かったのは、私の手術のおかげだよ」
男「あなたが私の手術をしてくれたのですね。ありがとう、ありがとう」
医者「いや、私が手術したのは、その心臓の提供者の方だよ」

「お医者様、こいつが屋根から落ちたんで、急いで診てやってください」
「どれどれ、……もう少し早く連れて来れば良かったが、手遅れですな」
「『もう少し早く』ったって、たった今屋根から落ちたところなんですよ!」
「落ちる前ならば良かった」

手術後、医師が患者の細君に言った。
「非常に申し上げ難いのですが……半身不随の後遺症が残りました」
「そ…そんな!」
細君は血相を変えて手術室に飛び込む。すると夫は何事もない様に、手術室を歩き回っていた。
「先生!私を驚かそうとしたんですね?成功したんですね、手術は」
満面に笑みを浮かべた細君に医師は、「上半身不随です……」
呟いた先で、夫の能面の様な顔が横に傾ぎ、唇から涎が伝い落ちた……。

インド人、アラブ人、アイルランド人の3人が旅をしていたが、今晩の宿がない。しばらく歩くと、小さな灯を見つけた。人里離れた小さな一軒家だった。
3人が宿を求めると、主人は泊まってもらっていいが、あいにく家が狭いため、ひとりは納屋に寝てもらうしかないと言った。
相談の結果、インド人が納屋に寝ることにした。
しばらくするとノックの音がした。ドアを開けると、そこにはインド人が立っていた。
「あの納屋には牛がいますね」インド人は申し訳なさそうに言った。「私の宗教では、牛は神聖な生き物です。とても一緒に眠ることはできません」
仕方ないので、アラブ人が納屋に寝ることにした。
しばらくすると、またノックの音がした。ドアを開けると、そこにはアラブ人が立っていた。
「あの納屋には豚がいます」アラブ人は困った顔をした。「私の宗教では、豚は不浄な生き物です。とても一緒に眠ることはできません」
仕方ないので、アイルランド人が納屋に寝ることにした。
しばらくすると、三たびノックの音がした。
ドアを開けると、そこには牛と豚が立っていた。

イギリス人と中国人がドッグショーで知り合った。
イギリス人「熱心に見てますね。犬はお好きですか?」
中国人『もちろんですよ。家族もみんな大好きなんです』
「ほう。今はなにか飼われてますか?」
『ココに出るような犬は高くてとても手が出ません』
「よろしければウチの仔犬をわけて差し上げましょう。もちろん血統書付ですよ」
『そんなもったいない!良いんですか?』
「ええ。珍しい種類なのでみなさんにこの犬の素晴らしさを知って欲しいのです」
送った後、中国人からお礼の手紙が来た。
『ありがとう!とても美味しかった。でも家族全員には足りなかったかな』

無人島に男2人女1人が流れ着いた。
この男女3人が…
イタリア人の場合、男同士が決闘し、勝った方が女と結ばれた。
フランス人の場合、3人で仲良く3Pをはじめた。
ロシア人の場合、女には目もくれずウォッカを飲み始めた。
イギリス人の場合、男同士で絡み始めた。
日本人の場合、男達はどうしてよいかわからず本社にFAXを送った。

あるアメリカ人の脳に腫瘍があることが分かった。
おまけに大きすぎて手術もできないとのことだった。
残された道は脳移植しかない。
担当医の説明によると、日本人の優秀な技術者の脳は 100グラム当たり50ドル
イギリス人の由緒ある貴族の脳は100グラム当たり60ドル、アメリカ人の脳はなんと100グラム当たり13,000ドル。
怒り狂ったアメリカ人が言う、「それじゃ、ボッタクリでしょうが。何でアメリカ人の脳がそんなに高いの?」
医者が答える、「あなたね、100グラムの脳を集めるのにアメリカ人が何人いるか分かってますか?」

あるとき神様が、アメリカ人、フランス人、ロシア人、日本人の4人の前に現れ、こう問いかけました。
「お金で幸せは買えると思いますか?」
するとフランス人は「ワインとチーズがあれば幸せです。」と答えた。
ロシア人は「そもそもお金という概念自体信用できない。」と言った。
アメリカ人は、本物の神様に会うことができて、答えるどころではありません。
そして、日本人は、財布を出しながらこう答えました。
「領収書、もらえますか?」

飛行機で行先を間違って運ばれたスーツケースがやっと戻ってきた。
日本の飛行機会社の職員は頭をペコペコ下げながら。
アメリカの職員は弁護士を連れ「当社に責任はない」と言いながら。
インドの職員は3日後やってきた。
イタリアの職員は……来るはずが無かった。

2人のアメリカ人旅行客が外国人にイタリア語で話し掛けられた。
イタリア語が分からない2人が黙っていると、その外国人はドイツ語に替えて話し掛けた。
2人がまた黙っていると、今度はフランス語で話し掛けた。
やはり2人が沈黙を続けていると最後はスペイン語で話し掛けたが、それでも黙っている2人を見て呆れ、立ち去ってしまった。
すると片方のアメリカ人がため息混じりに言った。
「なあジョージ、あの外国人、4カ国語も話せるのに全然役に立たないんだな」

あるスコットランド人が結婚した。
式の後で「牧師さん、お礼はいかほど差し上げましょう?」
牧師は軽く頭を下げ、「花嫁の美しさにふさわしいだけ…」
しめたと思った男は、たった一ドルの献金。
呆れた牧師は花嫁のベールをめくり、
五十セントを差し出し
「おつりです」

ある日本人がアメリカでタクシーに乗った。
しばらくすると、一台のホンダ車がタクシーを追い越した。
日本人は自慢げに言った。「やっぱり速いねぇ。日本製だからね」
またしばらくすると、今度は一台のトヨタ車がタクシーを追い越した。
日本人は自慢げに言った。「やっぱり速いねぇ。日本製だからね」
またしばらくすると、次に一台の日産車がタクシーを追い越した。
日本人は自慢げに言った。「やっぱり速いねぇ。日本製だからね」
そうこうしているうちに目的地についた。料金を尋ねると運転手はかなりの高額を要求した。
いくら何でもそれは高すぎると、日本人は運転手に文句を言った。
すると運転手は料金メーターを指さしてこう言った。
「速いだろう? 日本製だからね」

何年勉強しても絶対に身につかないものは?
「日本人の英語教育」
「アメリカ人の反戦教育」
「ロシア人の道徳教育」
「イタリア人の性教育」
「中国人のマナー教育」

以上、Google ジョーク集より引用


43. 酒は狂い水?幸せ水?

4月初旬に満開の桜の下で友人と花見の宴を催したときに、酒に酔わない飲み方、二日酔いの対策、などの話が出ました。そこで、今回はそれらについて述べます。なお、酒については、本シリーズ第7話でも述べましたのでそれもご参考にして下さい。

大学に勤務していた頃、多くの機会に知人、友人、教え子などと酒の宴を共にしました。そんなとき、上司に叱られて居酒屋でつぶれるまで飲み明かした大学院生、1時間で一升瓶を空にして顔色一つ変わらない女子学生、酒がある限度を越すと、目つきがうつろになり、説教をする酒乱の研究者、などさまざまな想い出があります。一般に、酒乱の人は、普段はおとなしくて、礼儀正しい人が多いです。友人は口を揃えて、「酒乱を除けば欠点のない人」といいます。皆さんの近くにもきっと同じ様な人々がいるに違いありません。

酒乱になるのはなぜ?
 酒癖が悪いのは、本来一人になったときに出るべき癖が、我慢しきれなくなって人前で出てしまうからです。いい気分になると、本人は酒で頭が麻痺しているので、普段抑制されている理性が解除されて、本人の知らない間に口や手足が勝手に動き出すのです。怒り上戸、からみ上戸、泣き上戸、笑い上戸など、どれもが酒のために精神状態が一時的に異常になったためです。

アルコールに強い、弱いはなぜか?
 上戸、下戸は肝臓でアルコールから生成するアセトアルデヒドの蓄積量で説明されます。詳細は本シリーズ第7話をご参照下さい。日本人の約4割は、アセトアルデヒドの解毒酵素の働きが弱いので、酒を飲むと、すぐに顔が赤くなり、動悸・頭痛などを感じます(下戸)。1割の人は解毒酵素をもっていないので、アルコールが体に入ると急性中毒症状になります(アルコール過敏症)。残りの5割はそこそこに解毒されるので、大量に飲まない限り解毒されます(上戸)。ちなみに欧米人は全員が強い解毒酵素を持っているので、アルコールに対しては日本人より強い人が多いです。

アルコールの吸収は速い
 水は胃から殆ど吸収されずに小腸で吸収されます。それに対して、アルコールを飲んだら1−2時間には胃と小腸で吸収された後、小腸から肝臓に入りそこで分解されます。飲んだ量の5−10パーセントは分解されずにアルコールのまま汗や尿などに含まれて体外に排出されます。

飲酒量とアルコールが分解、排出する時間
 アルコールが分解されて排出されるまでの時間は個人差が大きいです。一般には、ビール中瓶(500ミリリットル)1本で、男性では約3時間、女性では4時間かかります。男女差は肝臓の大きさの違いです。成人男性の肝臓は1.2〜1.4キロ、成人女性では1〜1.2キロです。アルコールの分解にかかる時間は、飲んだ量にほぼ比例しますので、ビール中瓶を4本飲むと、アルコールを分解するには、12時間近くかかることになります。ちなみに大瓶は633ミリリットルです。

二日酔いの原因物質は?
「二日酔い」の原因物質は、アルコールではなく、それが肝臓で代謝されて生成したアセトアルデヒドです。少量のアルコールの場合、体内で生成されたアセトアルデヒドは直ちに他の無毒な代謝物に分解されて最終的に体内から尿中に排出されます。しかし、大量のアルコールを飲むと、大量のアセトアルデヒドが肝臓で生成して、無毒化に必要な体の能力を超える結果、アセトアルデヒドが肝臓に蓄積し、血液を介して体内に運ばれて、動悸(心臓)、吐き気(胃)や頭痛(脳)の原因になります。ちなみに、大ジョッキは800、中ジョッキは中瓶と同じ500、小ジョッキは350ミリリットルです。

細胞はアルーコールに敏感
 酒を飲んで顔が赤くならなくともすぐに酔ってしまう人と、かなり飲んでも平気な人がいます。これは肝臓の解毒能の他にアルコールに対する脳の感受性の違いも関係します。飲酒を頻繁に続けると酒に弱い人でもある程度酒に強くなることがあります。これは脳の神経細胞のアルコール感受性が下がった事が大きな要因です。この様に感受性が低下する事を専門用語では、「アルコールに対する耐性の獲得」といいます。

飲酒で記憶が飛ぶ
 酒を飲みすぎて記憶が飛んだ経験がありませんか。「昨夜は何時に帰ったか」、「どのようにして帰ったか」などなど。このように酒を飲みすぎて記憶が飛ぶ現象を「ブラックアウト」と言います。これは一時的な「脳障害」です。飲みすぎることによって、脳の中の記憶を司る「海馬(かいば)」という場所が麻痺するからです。若い頃の「ブラックアウト」は回復しますが、高齢者がこれを繰り返すと危険です。徐々に物覚えが悪くなったり、脳梗塞、脳出血、認知症などの引きがねになることがあります。

飲み過ぎによる脱水症状に注意
「脱水症状」と聞くと、激しいスポーツを続けたときや、猛暑で大量に汗をかいたときなどに起こるイメージがありますが、実は飲酒でも脱水症状が起こります。ビールを飲み始めて1時間もすると頻繁にトイレに行きたくなります。それはアルコールの強力な利尿作用によるものです。体内から水分が排泄されると脱水症状が引き起こされやすくなります。酒を飲んだ後喉が渇くのはそのためです。脱水症状が進んで血液中の水分が減少すると、胃腸への血流量が減少し、胃の働きが低下し吐き気などの不快な症状を引き起こすこともあります。酒を飲むときには水分の補給が必要です。

二日酔いを避けるには
 酒を飲んだ翌日に頭がガンガン、吐き気や眠気など、最悪の状態になります。下戸の私も、昔、つきあいでビールをコップで1−2杯飲んで、心臓が飛び出すほど動悸し、翌日まで気分が悪かった経験があります。これが「二日酔い」です。二日酔いで四苦八苦しても、時間が経つと少しずつ症状が回復し夕方には完全に正常な状態に戻ります。そこでまた一杯というのが愛飲家の常です。お酒は飲みたいけど、二日酔いはイヤという人に、ぜひ心がけていただきたいことがあります。
 重要なことは空腹時の飲酒を避け、時間をかけてゆっくり飲むことです。また、個人差はありますが、酔いからさめるまでに350ミリリットル缶や小瓶1本(334ミリリットル)で約2~3時間かかります。二日酔いを防ぐにはアルコールを飲みながら合間に水を飲む事です。冷たい水や夏場に氷の入った水は胃腸に負担をかけるので、氷なしの水をおすすめします。 アルコールの吸収を抑えるには、酒を飲む前、もしくは飲みながら肉、魚、冷奴、味噌汁、納豆などの高タンパク食を摂るのがよいです。また、弱った肝臓を活発に働かせるためには、ビタミンA、ビタミンCやビタミンB群が効果的です。

「迎え酒」は科学的に効果があるか?
 「二日酔いに迎え酒が良い」というのは昔から言われていますが、はたして本当でしょうか。アルコール中毒に詳しい医師の話では「医学的根拠はまったくありません。単に酒好きの人々が言っている俗説です」とのこと。さらに言うならば、前夜に大量摂取したアルコールの処理に疲れ果てている肝臓に、追い討ちをかける様にアルコールを入れるのは、肝臓の負担を大きくするだけです。 迎え酒を飲むと、その有害代謝物の「アセトアルデヒド」がさらに増加して肝臓のダメージがひどくなります。迎え酒が二日酔いを改善した様に錯覚するのは、翌朝に再び酒を飲む事により気分が高揚し、前日の二日酔いで頭が痛い、吐き気がするなどの症状を忘れるだけのことです。

急性アルコール中毒は命取り
 酒を飲んで危険なのは「急性アルコール中毒」です。大量の酒を一気飲みすると脳の中の呼吸をつかさどる場所が麻痺して呼吸が出来なくなり、心肺停止状態になります。東京消防庁のデータによれば、平成26年度の急性アルコール中毒による救急搬送者は、14,303名。年代別では、男女ともに20歳代が圧倒的に多いのです。その理由は簡単で、飲酒の経験が少ないために自分の適量が分からず、無謀な飲酒をしてしまうからです。また、新人の場合、先輩に言われて断りきれない飲み会の場が多いからです

まとめ
吉田兼好の「徒然草」に「百薬の長とはいへど、万の病は酒よりこそ起れ」とあります。酒は百薬の長とは言うけれど、すべての病気は酒から起きるとのこと。ほどほどにたしなむ程度なら「百薬の長」ですが、飲みすぎて酒に酔ってしまえば「狂い水」にもなります。その反面、酒は人間関係を円滑にする「幸せ水」でもあります。特に日本人の場合、親しくなりたいとき、本音で語り合いたいときなど、酒の席がある事によって意思疎通が出来る事は確かです。
 若いときの暴飲暴食の影響は20−30年後に現れます。ロシアやフランスではウオッカやワインを浴びる程飲むので、肝臓がんの患者が世界一です。アルコールに強い人が肝臓の働きがよいとは限りません。酒に強い人はたくさん飲むので肝障害を起こし易く、酒に弱い人はたくさん飲めないため、肝臓も悪くならないのです。ほどほどに飲むのが楽しい酒の飲み方です。                      (2017年5月1日記)

次回予定「健康食品とサプリメントは治療薬ではない」


44. 健康食品とサプリメントは治療薬ではない

生活習慣の改善や、何となくからだの調子が悪い人のために多くのサプリメントや健康食品が市場に溢れています。中には、怪しいダイエット薬や健康食品が安易に使われています。「健康食品」は、普通の食品よりも「健康によい」と称して販売している「食品」なので安心してつい安易に使われることが少なくありません。それは大変危険なことです。正しく使わなかったためにこれまで多くの健康被害が知られています。

「サプリメント」は、本来は「補給」を意味するものですが、最近では栄養補助食品、健康補助食品として使われています。「サプリメント」と日常摂取する「食品」の大きな違いは、サプリメントは健康効果が期待できる特定の成分が錠剤やカプセル、液体の中に濃縮されて入っている事です。それに対して、食品にはさまざまな種類の栄養素や健康効果を示す成分が少量ずつ含まれています。サプリメントは医薬品と違って直ぐに効果が出るものではありません。そうかといってすべてのサプリメントが数ヶ月飲み続けたら必ず期待した効き目が出るとは限りません。飲み始めて1ヶ月目ぐらいが有効、無効を判断するときです。

サプリメントと同様に頻繁に使われている言葉として、「機能性食品」、「マルチビタミン」、「特定保健用食品(特ホ)」、「栄養強化食品」などがあります。「特ホ」は、その効き目について一定の試験データを国に提出して、消費者庁長官の許可を受けて保健の効果(許可表示内容)を表示することのできる食品です。したがって、一般の健康食品よりはその品質、副作用などは心配しなくてよいものです。

サプリメントや健康食品は薬に比べて安全だと考えている方がおりますが、決してそんな事はありません。薬ほどではないにしても、必要以上に摂ると何らかの副作用が表れることがあります。あくまでも食品を補うためのもので、食事の代わりに食するものではありません。ところが、驚く事に、最近ではダイエットと称して、複数のサプリメントを主食の代わりにしている人が少なくないのです。これはサプリメントの間違った使い方です。これが長く続くと栄養のバランスが崩れ、健康をそこなうもとになります。

医薬品と異なり、サプリメントや一般の健康食品は国に申請して承認されたものではなく、業者が自由に製造して販売しているものです。したがって、万が一毒性や副作用が生じても国には責任はありません。すべては製造業者の責任になります。また、薬の様に「肝臓病に効く」とか、「高血圧に有効」など特定の病気を治す効果を宣伝すると「薬機法(旧薬事法)」違反になります。

最近ではポリフェノールやカロテノイドなどが体内の活性酸素の毒性を消すということでサプリメントとして人気です。本来、活性酸素は体内に侵入した細菌やウイルスを殺すために体内で生成される物質ですので、身体の機能を守るために必要なものです。たしかに過剰の活性酸素は身体にとっては有害ですが、過剰に生成されたときには、体内の酵素(SOD)で分解されますので多少過剰に産生されても心配いりません。わざわざサプリメントを摂取して活性酸素を除去する必要はないのです。

繰り返しますが、サプリメントはあくまでも食事によって十分に摂り切れない栄養素を補うための“補助食品”です。サプリメントは特定の成分が欠乏したときにそれを補充する目的で摂るので、サプリメントを摂取したからといって、身体に必要な栄養分を網羅的に摂取できたということにはなりません。

サプリメントは適量を摂取していれば問題ないですが、「正しい摂り方」を知らずに過剰摂取すると思わぬ弊害が出ます。次に例を挙げます。

1)ビタミンA
 ビタミンAが不足すると粘膜が乾燥しやすくなり、目が乾き、肌がかさかさになります。しかし、ビタミンAを摂り過ぎると、頭痛、めまい、吐き気、嘔吐などの中毒症状をおこすことがあります。1996年(平成8年)に厚生労働省は妊婦がサプリメントとしてビタミンAを大量に摂取すると奇形児が生まれる危険性があるので、「妊娠3ヶ月以内の妊婦」、「妊娠を希望する女性」に対してはビタミンAを投与する事を禁止しました。妊娠3ヶ月というのは胎児の手足などの器官が作り出される時期です。専門用語では「器官形成期」といいます。

最近、ビタミンAの代わりにベータカロチンをサプリメントとして摂っている人が増えています。この物質は人参に多く含まれており、体内でビタミンAに変換されます。

2) 大豆イソフラボン
 大豆イソフラボンは、強力な抗酸化活性を有するので、体内で過剰に活性酸素が生成されたときにそれを排除するために有効としてサプリメントで摂ることがあります。しかし、体内には過剰な活性酸素を分解する酵素(SOD)がありますので、通常の場合、サプリメントとして補給する必要はありません。

イソフラボンはサプリメントを飲まなくとも日常の食品の中に多く含まれています。食品の場合、味噌汁1杯(20グラム)に約6ミリグラム、納豆1パック(50グラム)に約35ミリグラム、豆腐1丁(300グラム)に約60ミリグラム、豆乳1パック(200グラム)に約50ミリグラムが平均して含まれている計算になります。これからも分かるように、通常の食事でも十分にイソフラボンは摂ることができます。 「イソフラボン量」の示し方には2通りありますので混乱し易いです。イソフラボン配糖体(通常イソフラボンと呼ぶ)は「イソフラボンアグリコン」と「糖」が結合したものです。イソフラボンを飲むと、腸内でイソフラボンアグリコンと糖が切り離されて、「イソフラボンアグリコン」が効果を発揮します。アグリコンの数値を1.6倍すると「イソフラボン配糖体」の量となります。例えば「アグリコン30ミリグラム」は、配糖体に換算すると「48ミリグラム」となります。

2006年の内閣府の食品安全委員会の報告によればは、イソフラボンの摂取目安量の上限値は約112ミリグラム(70~75ミリグラム)、特ホとしての摂取量は48ミリグラム(30ミリグラム)、食事では約32ミリグラム(20ミリグラム)です。(カッコ内はイソフラボンアグリコン値) また、大豆製品とイソフラボンの効果や身体への影響、適切な摂取方法について、妊婦、胎児、乳幼児はサプリメントとして大豆イソフラボンを長期間摂ることは推奨できないとしています。

3)イチョウ葉食品
 イチョウ葉エキスは、脳や手足の血液循環が悪い人によい効能があるといわれています。しかし、市販されているエキスの中には、製造の過程で不純物である「ギンコール酸」が完全に取り除かれていないものもあり、そのために多くの健康被害が報告されています。この物質はアレルギーを引き起こす事が知られており、エキスの中にギンコール酸が残っていると皮膚の炎症や下痢、吐き気などの症状がでることがあります。

4)ウコン
 漢方薬として昔からよく知られています。ウコンの主成分の「クルクミン」はポリフェノールの一種で抗酸化作用があります。ウコンは比較的安全性の高い健康食品で、一日当たりの摂取量の目安は乾燥ウコンで2−3グラムです。しかし、大量のクルクミンを長期間摂り続けると消化器障害になることがあります。特に胃潰瘍、胃酸過多、妊娠中、肝硬変などの方は避けた方がよいでしょう。ウコンの詳細については本シリーズ第40話をご参照下さい。

5)甘草
 甘草はよく知られている漢方薬で原産地は中国です。名前の通りショ糖(砂糖)の150倍の甘みをもっているので、日本では甘味料として醤油などに添加されています。甘草の甘みはその主成分のグリチルリチンによるものです。この成分は強い解毒作用をもっているので肝機能改善薬として使われています。しかし、その詳しい仕組みについてはわかっていません。長期間服用すると、血圧の上昇やむくみがみられることがありますので注意が必要です。国では一日の摂取量として200ミリグラムに制限しています。

プラセボ効果とは?
治癒効果を持っている実薬、例えば鎮痛薬と味、色が全く同じ錠剤(実薬が含まれていない偽薬、プラセボと言います)を患者に投与したら、30パーセントの人で痛みが消えたとの報告があります。つまり、薬と信じて飲んだ患者は効き目がみられたのです。これを「プラセボ効果」(またはプラシーボ効果)と言います。

まとめ
 サプリメントや健康食品は、高齢者や肝機能、腎機能が低下している人はその危険度が大きいので使用を控えた方がよいでしょう。また、マスコミの情報には「誇大広告」がつきものですので、健康食品やサプリメントを使うときには、医師、薬剤師などの専門家の意見を聞き正確な情報を集めて結論を出した方がよいです。サプリメントと薬の飲み合わせも問題です。病院の処方薬を飲んでいる人は医師、薬剤師にサプリメントを飲んでいる旨を伝えることをお勧めします。

最後に一言。サプリメントを愛用している人の中には、プラセボ効果で使っている人もいないとは限りません。もしそうだとしても、それについて他人が兎や角言う事は余計なお世話です。サプリは本人の信仰ですから。                       (2017年6月1日記)

次回予告:「空腹ホルモン・満腹ホルモンってなに?」


Topへ




累積今日昨日